OPECプラス10万バレル増産は返礼?侮辱?

 8月3日のOPECプラスの総会では、減産に参加している20カ国の9月の原油生産量(合計)の上限を、前月に比べて10万バレル/日量引き上げることが決まりました(以下のグラフの青線)。

 2020年5月に減産を再開して以来、OPECプラスは、何度も上限の引き上げを行ってきました(昨年8月から今年6月までは、40万~43万バレル引き上げ)。

 今年7月と8月は64万バレルの引き上げが行われましたが、これは通常の43万バレルに9月分の引き上げ分の半分を上乗せしたものでした。これは6月2日の第29回OPEC・非OPEC閣僚会合で決定した内容です(この時点で9月の上限は決まっていない)。

 9月の上限(10万バレル引き上げ)が決まったのが、8月3日の第31回の会合でした。この10万バレルの意味をめぐり、さまざまな解釈がなされています。

 ロシアとサウジが同居するOPECプラスという組織が、価格上昇(インフレ増幅)をもくろむロシアの意に反して、上限引き上げを決定する道のりは困難を極めたでしょう。この決定は、産油国にさまざまな前向きな策を講じながらも、インフレにあえいでいる消費国に配慮した「返礼」である、としたメディアがありました。

 一方、たった10万バレルの上限引き上げで何かが変わることはない。7月にジョー・バイデン米大統領がサウジに行き、増産を直談判したことへの回答が、たった10万バレルとは。これは「侮辱」だ。このように述べたアナリストのコメントを引用したメディアもありました。

 この決定は「返礼」であり「侮辱」であるように思えますが、筆者はどちらでもない、と考えています。もともとこの10万バレルの上限引き上げは、OPECプラスが機械的に行ったもので、機械的ゆえ、そこには意味を持たせることが難しいためです。

図:OPEC+(減産参加20カ国)の原油生産量と生産量の上限 単位:百万バレル/日量

出所:OPECの資料およびブルームバーグのデータをもとに筆者作成 

 9月に10万バレル引き上げることで、2021年7月に開催された第19回の会合で決定した内容が達成されます。その内容とは、2022年9月に、第10回の会合(2020年4月)で再開を決定した減産を終了するように努力すること、です(あくまで努力目標)。

 10万バレル引き上げることで、引き上げ続けてきた上限が第19回の会合で設定した減産基準(4,385万バレル)に達し、現行の減産がいったん終了します。ただ減産は終わらず、第19回の会合で新たに設定された減産基準(4,548万バレル)に向けて、今年12月まで、再び上限引き上げが続きます(12月までの減産継続も同会合で決定)。

 今年の7月と8月に、9月分を分割して前倒しで増産するなど、(世間の要請に応じて)部分的な調整を行うことはあるものの、彼らは自ら設定した減産基準を目指し、生産量の上限の引き上げを粛々と行っています。

 たとえ上限を引き上げても、実際の原油生産量は上限通りの量にならないことが常態化しており、かつその引き上げが機械的であるため、上限引き上げに意味を持たせることは難しいと言わざるを得ません。重要なのは、実際の原油生産量でしょう。

 実際の生産量は、ロシアとカザフスタンの生産減少が目立ち、サウジ、UAE、イラクの増産分が帳消しになり、ウクライナ危機前に比べると、グラフの通り「やや増加」にとどまっています。実際のところ、OPECプラスは大幅な増産をしてくれてはいないのです。