原油高が続いてしまう可能性は否定できない
バイデン氏がさまざまな意味でもくろむ「サウジ増産」ですが、仮に増産をさせることができたとしても、世界全体の原油生産量は増加しない可能性があります。以下は、今年2月(ウクライナ侵攻発生)と6月の原油生産量の変化です。
図:主要国および世界全体の原油生産量の変化(2月と6月を比較)単位:千バレル/日量
ウクライナ危機発生後、世界全体の原油生産量は「減少」しています(12万バレル減)。サウジは増産していますが(34万バレル増)、この増産分はカザフスタン(旧ソ連、OPECプラスの非OPEC側の国)の減産分で相殺されてしまっています(36万バレル減)。
また、米国の増産分(69万バレル増)は、ロシアの減産分(74万バレル減)に相殺されています。つまり今後も、米国やサウジが増産をしても、それを相殺して余りあるだけの減産をする国によって、増産の効果がかき消されてしまう可能性があるわけです。
そもそもバイデン氏は、サウジに増産をさせることができない可能性があります。以下のとおり、複数の「できない」理由が束になっているためです。
(1)米国はサウジにとって望ましい大型の長期契約を結ぶことができない。
米国にとって増産をしてほしいのは今だけ。増産分を米国が買うかどうかは、わからない。長期的には「脱炭素」推進のため原油は不要。
(2)人権問題で強く非難したムハンマド皇太子との関係を改善できるかわからない。
バイデン氏は、サウジの著名記者殺害事件(2018年)にムハンマド氏が関与したと明確に結論付けた。これをきっかけに両国の関係はぎくしゃくした。
(3)「脱炭素」推進を撤回できず、原油否定(≒産油国否定)の旗を下すことができない。
バイデン氏は、2020年の大統領選で、環境問題を重視していないとトランプ氏を激しく批判。大統領就任直後、すぐさまパリ協定に復帰し、「脱炭素」推進を世界に強烈にアピールした。バイデン氏の基本的姿勢は「産油国否定」ともとれる「脱炭素」。
(4)この交渉が「中間選挙対策」という魂胆が透けている。
インフレが米国国民(特に共和党支持者)の重大な関心事だと、サウジ側も承知しているはず。サウジの増産が、人権批判・石油批判をした人物の、目先の選挙対策だということも承知しているはず。
バイデン氏がこうした「できない」理由を乗り越えることは、非常に難易度が高いと、筆者は考えます。ただ、「それでもサウジに行く」わけですので、なにか秘策があるのかもしれません。
サウジが、ロシアやその他の産油国や、近隣の中東諸国との関係をふいにしたとしても、「脱炭素」が進んで原油が不要になる時代が訪れたとしても、未来永劫(えいごう)、米国が、サウジの政治、経済、文化を保護する保障をすれば、交渉は成立するかもしれません。
仮に秘策によってサプライズが起き、原油相場が下落したとしても、下落の幅や期間は、限定的なものになると筆者は考えます。
サウジ増産は(金利引き上げもそうですが)、一時的なインフレ沈静化要因にはなり得ても、ウクライナ危機が激化して始まったコスト・プッシュ型のインフレを沈静化させる(原油相場にウクライナバンドを下回らせる)要因にはならないと考えるためです。
増産をさせることに成功し、一時的であれ、インフレを沈静化させることができれば、共和党・民主党支持者、両方の支持を得ることができ、同時に、インフレにあえぐ西側諸国から拍手喝采を得られるでしょう。
しかし、逆にできなかった場合に負うダメージは、大きくなる可能性もあります。今週13日から16日、バイデン氏の動向に注目です。
[参考]原油関連の具体的な投資商品例
国内株式
INPEX
出光興産
NEXT NOTES ドバイ原油先物ダブル・ブルETN
NF原油インデックス連動型上場
WTI原油価格連動型上場投信
NEXT NOTES 日経・TOCOM 原油ベア ETN
米国株式
海外ETF
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
投資信託
UBS原油先物ファンド
米国エネルギー・ハイインカム・ファンド
シェール関連株オープン