おそろしいシナリオ

 数字を見る限り、現在の米雇用市場が堅調です。しかし、コロナ後の経済は光速スピードで変化しています。雇用市場がどのような状態にあるかよりも、雇用市場がどちらへ向かっているかを知ることの方が大切なのです。

 生活コストの上昇による実質所得の減少が人々の仕事復帰を促し、労働力の供給が十分になった結果、賃金上昇圧力が軽減し、結果としてインフレが低下する。これが米経済にとってはベストです。

 しかし、別のシナリオも存在します。それは、生活コストの上昇による実質所得の減少で消費が縮小して、売上減で企業業績が悪化する。その結果、雇用が減り、失業者が増え、不況になる。これは米経済にとってはワーストシナリオといえますが、こちらの可能性の方が高いことは、残念ながらパウエルFRB議長も認めています。

 FRBが大幅利上げという劇薬によってインフレ率を2年以内に目標値の2%まで下げようとしたら、失業率は8%まで急上昇するといわれています。パウエルFRB議長の、インフレ抑制の手段に「条件をつけない」とは、経済成長さえ犠牲にするという宣言です。

 インフレと刺し違える覚悟のパウエル議長に対して、大量緩和政策はそのままに、でもインフレは困るのでドル安にしてくれと日本銀行が頼んだら、パウエル議長が喜んで協力するとでも思っているのでしょうか。