中国経済をめぐる不安要素の連鎖が止まりません。ウクライナ危機や上海市などにおけるロックダウン(都市封鎖)の影響は、供給網や物価、雇用、投資、消費などあらゆる分野に波及。足元では、人民元安や株式市場の混乱も生じています。中国政府もこの難局を乗り切るためにさまざまな施策を打ち出してはいますが、先行きは不透明なままです。

GDP成長率「5.5%前後」の目標設定は高すぎたのか?

 先週のレポートで扱ったように、2022年1-3月のGDP(国内総生産)成長率は物価の変動を除いた実質で前年同期比4.8%増でした。過去1カ月、私が中国の経済官僚や政府に提言をする立場にある経済学者らと行ってきた政策議論を総括すると、次の3点に要約できます。

(1)2022年度の成長率目標「5.5%前後」の達成は相当難しい
(2)今年の成長率は「前低後高」(前半低く、後半高い)という曲線を描く可能性が高い
(3)4~6月の成長率にも下振れ圧力がかかり、4期連続で5.0%に満たない可能性あり

 また、4月中旬、私が信頼する中国国有銀行の幹部が興味深い指摘をしてきました。

「従来、中国の国有企業の経営者や政府系シンクタンクの経済学者、大学教授らは、中央政府が発表するGDP成長率よりも高めの成長率を予測し、結果的にそうなってきた」

 例えば、政府は2021年のGDP目標を6.0%以上と設定し、結果は8.1%でした。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大直後ということで、成長率の目標設定はされませんでした。2019年は、6.0~6.5%と設定し結果は6.1%。2018年は6.5%前後と設定し結果は6.6%。2017年は6.5%前後と設定し、結果は6.8%。

 2018、2019年は「ギリギリ」の目標達成となりましたが、それでも政府自身が設定した目標は達成されています(ここで中国国家統計局が発表する統計の信ぴょう性は議論しません)。

 要するに、中央政府は往々にして「必ず達成可能な」保守的な目標を設定する、一方、企業家や経済学者は「そんな目標の達成は容易で、もっと高い目標を設定したほうが、市場の期待値向上につながり、経済成長をけん引できるのではないか」という視点から、中央政府の目標設定を眺めてきた、ということです。

 同幹部は続けます。

「ただ今回だけは状況が異なる。中央政府は2022年の目標を5.5%前後と設定したが、私を含め、多くの市場関係者や専門家は、その設定を高すぎると感じている。私自身も、5.0%以上程度に設定するのが現実的だと考えている。ウクライナ問題、新型コロナなど、多くの不確定要素やリスクを中央政府は制御できないどころか、予測すらできていないのだから」

 以前もレポートで言及したように、私も今年の成長率目標は「5.0~5.5%」程度に設定されると予測していましたから、この幹部の感覚に共感します。秋に党大会が行われ、習近平(シー・ジンピン)総書記にとっては「3選」がかかる重要な政治的局面であるだけに、経済成長がますます重要になり、ゆえに前のめりの目標設定となった点は否めないでしょう。