人民元安と株価下落に反映される景気の下振れリスク

 消費や雇用、物価、不動産投資などに陰りがみられる現状については、先週、先々週のレポートで検証してきたとおりです。ここにきて、人民元安と株式市場の混乱が一段と加速しており、市場関係者だけでなく中央政府もその対応に追われているように見受けられます。

 4月25日、上海総合指数は前日から5.13%安の2,928.51ポイントとなり、2020年6月以来、約1年10カ月ぶりの3,000割れとなりました。また、26日、中国人民銀行(中央銀行)は人民元基準値を対米ドルで6.5590元と発表、約1年ぶりの元安水準となりました。

 26日、中国人民銀行は、同行が発行する『金融時報』の取材に応えるという形で、株式市場の混乱を「主に投資家の期待値と自信の低下の影響」と説明した上で、足元の苦境を乗り越えるべく、次のような施策を発表しています。

・円滑な物流や供給網の安定を支持し、新型コロナが経済社会の発展に及ぼす影響を最小限に抑える

・大手プラットフォーム企業の再編作業を穏当に進め、一刻も早く終了させ、プラットフォーム経済の健全な発展を促す

・中央銀行として穏健な金融政策をとることで、実体経済への支持を強化する。特に、新型コロナの影響を深刻に受けている業界や中小企業、個人事業主を支持する。農業生産やエネルギー供給拡大を支持する。石炭の開発や消費、貯蓄増強に向けて、1,000億元(約2兆円)の追加借款で支持する

・流動性を合理的に担保し、金融市場の健全で平穏な発展を促す

 25日には、外貨の預金準備率を9%から8%に下げる(5月15日実施)と発表。金融機関が人民元を売って外貨を買う動きを弱めることで、資本流出に歯止めをかけ、元安に対応する姿勢を打ち出した形となりましたが、効果や先行きは依然として不透明と言えます。

 実際、今年1月、『金融時報』は人民元が2年連続の上昇を経て、今年は元安圧力に直面しているとの見解を示し、利回りに関する優位性の低下、ドル高、貿易黒字の縮小、世界市場の不確実性といった一連の要因が人民元に下落圧力をもたらす可能性があると指摘しています。

 従って、同行にとって足元の通貨安は決して「想定外」の事態ではないのでしょう。私自身、昨年末あたりから、米FRB(連邦準備制度理事会)による利上げは中国からの資金流出を促し、次第に人民元安に見舞われるという声を中国の金融当局や経済官僚から聞いていました。

 4月22日、国家外貨管理局副局長兼報道官の王春英(ワン・チュンイン)氏が記者会見を開き、足元の人民安について次のような立場を表明しています。

「歴史的に見ると、米FRBによる金融政策の調整、特に利上げは各国における資本流動に影響を与えるのが通常であるが、受けるショックが比較的大きいのは経済のファンダメンタルズが弱い国である。この点、中国の外貨市場における強靭(きょうじん)性は不断に増強しており、今回の利上げに適応できるだけの基礎と条件を備えている」

「人民元の為替レートに関してだが、引き続き元高、元安の双方向で、かつ合理的な均衡水準で安定的に波動すると見ている…中国の国際収支構造は安定していて、経常収支も合理的な規模で黒字を維持している。人民元資産には長期的に見て投資価値がある。これらの要素は人民元為替レートの基本的安定を支えている」

 実際に、2021年12月、中国人民銀行は元高対応で外貨の預金準備率を引き上げています。世界の主要国に先駆けてコロナ禍から経済回復し、2020年もプラス成長を遂げた中国に投資マネーが流入し、元高を促してきた経緯を受けての対応でした。約15カ月を経て、足元では当時と全く逆の状況が発生している、ゆえに、逆の措置で対応を試みるということなのでしょう。

 王副局長が指摘するように、中国人民銀行は引き続き、一定の範囲内における自国通貨の波動を容認しつつ、元高、元安それぞれの局面で対応策を施していくというスタンスなのでしょう。