米国の債務が大台乗せ、債務が増えるとなぜ問題なのか?

 米国が抱える債務の合計が1月末時点で30兆ドル台に乗せた。建国から245年余り、国の借金は史上初めて大台を超え、30兆123億ドルに達した。2020年3月以降、米国の国家債務は約3割、額にすると6.5兆ドル急増している。

債務が急激に増加している

出所:WOLFSTREET

 以下は2020年12月以降の日々の債務残高を拡大したものである。

2020年以降の米国債務の推移

出所:WOLFSTREET

 米財務省がニューヨーク連銀に保有する政府預金口座(TGA)は野放し状態だ。昨年の夏をピークに減少したものの、秋から年末にかけての恒例行事である債務上限問題が議会を通過すると再び増加し、1月末時点で742億ドルに達した。

政府預金口座(TGA)残高

出所:WOLFSTREET

 コロナウイルスのパンデミックが世界に広がってからというもの、サプライチェーンの混乱、商品の価格変動、雇用市場での課題、観光による収入の減少など、世界経済は試練に立たされている。

 この困難な状況に対処するため、世界各国政府は医療費の増加、失業、食糧難、企業の生き残りなどに対処するため、支出を増やさなければならなくなった。

 こうした対策を財政的に支援した結果、世界の債務水準は過去半世紀で最高となった。ヴィジュアル・キャピタリストの記事「Visualizing the State of Global Debt, by Country(国別の国家債務を可視化する)」は、IMF(国際通貨基金)が発行した最新のWorld Economic Outlookレポートから、国別の債務残高対GDP(国内総生産)比のデータをまとめたものである。

 債務残高対GDP比の上位は、日本、スーダン、ギリシャで、いずれも200%を大きく超えている。以下、エリトリア(175%)、カーボベルデ(160%)、イタリア(154%)と続いている。

債務残高の対GDP比

出所 ヴィジュアル・キャピタリスト

債務残高対GDP比の上位のランキング

出所:ヴィジュアル・キャピタリストのデータから石原順作成

 政府債務の急増は大きな懸念材料とされているが、果たしてGDPに対する債務残高が高い場合、何が問題なのか。

 一般に、債務残高の対GDP比が高い国ほど、債務不履行に陥る可能性が高く、市場に金融パニックが発生する。世界銀行は、債務残高対GDP比が77%以上の国が長期にわたり、経済が低迷しているとの調査結果を発表している。

 パンデミックは、世界の債務危機を深刻化させた。IMFの報告書によると、少なくとも100カ国が保健、教育、社会保護への支出を削減しなければならなくなる。また、発展途上国の30カ国は、債務の返済が非常に困難な状況にあることを意味する高水準の債務苦境に陥っているという。

 この危機は、先進国よりも貧困国や中所得国に大きな打撃を与えている。先進各国は財政刺激策のために借金を拡大しているが、中低所得国にはそうした余裕はなく、世界的な不平等を拡大させる可能性がある。不平等や不均衡はなにかしらの混乱を引き起こす可能性を秘めている。

 近い将来、通貨インフレという詐欺的増税が到来するだろう。歴史的経験が何かを教示してくれるとすれば、それは私有財産が文明と密接に絡み合っていることだ。われわれは社会主義化する世の中の新しい現実に備えて、資産防衛の準備をするしかない。