カネをばら撒くより減税を!

 新しい資本主義を掲げる岸田政権は、「分配」の次は「財政出動」を強化するらしい。富の偏在と貧富の差の拡大を受けて「分配(MMT)」を言い始めた岸田政権だが、欧米と比べると周回遅れの政策である。

 米国では新型コロナを大義名分に、かつてみたことのないようなMMT(分配)を行ったが、2022年に入り、「紙幣の大増刷と信用創造」というバラマキはインフレによって終焉(しゅうえん)を迎えつつある。

*MMT(現代貨幣理論)
ある条件下(低インフレ下)で政府は国債をいくらでも発行して良いという考え方を指す。これは政府債務の拡大(借金を増やすこと)を歓迎する新しい経済理論であり、昨今では経済学者の間で議論や批判の対象になっている。

 債券王ジェフリー・ガンドラックは、「MMTについてどう思うか?」と聞かれ、「すでにどんな考えも許容されるところにこの世の中は来ている。日本は負債をものすごく増やした。

 しかしその結末としては30年前の株式市場の最高時から30年たってもまだ半分しか回復していないということ以外何もない。ゼロ金利、国の負債の増加、経済的に成功していないという事実の間に何か相関があるのだろう。

 フェアで機会がある良い社会をつくろうというのがMMTであっても、実際には結果は逆となり、本当の問題を見過ごしていることに過ぎない」と答えている。

日経平均(月足)と売買シグナル

出所:石原順

 マーク・ファーバーは、「普通、サンタクロースは思春期にいなくなる。正直なところ、MMTは現代でも理論でもない。通貨インフレによる詐欺的課税で資本主義と中産階級の両方に忍び寄る、実績ある殺し屋だ」と述べたが、「ツケの先送り」によって積みあがった国の借金は、いずれインフレ、富裕税、預金カット、通貨切り下げなどで減価していくだろう。

 カネをばら撒(ま)くより、減税をやって消費を刺激し、企業の利益も増え税収も増えていく好循環に持っていくべきなのである。

 MMTをやればどこの国も英国病時代の英国のようになるだろう。経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは政府から十分な支援を得てしまえば資本主義は停滞すると信じていた。

 MMTは2008年のリーマンショックで金融資本主義が崩壊した後に出てきた、なれの果ての社会主義政策で、結果的にほぼすべての人々を貧乏人にする給付型奴隷社会の雛形(ひながた)である。無制限に国債や政府債を発行して、政治家や役人がその分配をした場合、堕落、腐敗、蛮行の世の中になるのは歴史の必然である。

 特に、「少子高齢化」の日本においては、膨大なツケの先送りが日本社会を崩壊させてしまいかねない状況となっている。

「生産性を高めずに財政赤字を計上し、国債を発行し、貨幣を増発し続けることはできず、それは長期的に持続不可能だ」

(レイ・ダリオ)

米国の債務が大台乗せ、債務が増えるとなぜ問題なのか?

 米国が抱える債務の合計が1月末時点で30兆ドル台に乗せた。建国から245年余り、国の借金は史上初めて大台を超え、30兆123億ドルに達した。2020年3月以降、米国の国家債務は約3割、額にすると6.5兆ドル急増している。

債務が急激に増加している

出所:WOLFSTREET

 以下は2020年12月以降の日々の債務残高を拡大したものである。

2020年以降の米国債務の推移

出所:WOLFSTREET

 米財務省がニューヨーク連銀に保有する政府預金口座(TGA)は野放し状態だ。昨年の夏をピークに減少したものの、秋から年末にかけての恒例行事である債務上限問題が議会を通過すると再び増加し、1月末時点で742億ドルに達した。

政府預金口座(TGA)残高

出所:WOLFSTREET

 コロナウイルスのパンデミックが世界に広がってからというもの、サプライチェーンの混乱、商品の価格変動、雇用市場での課題、観光による収入の減少など、世界経済は試練に立たされている。

 この困難な状況に対処するため、世界各国政府は医療費の増加、失業、食糧難、企業の生き残りなどに対処するため、支出を増やさなければならなくなった。

 こうした対策を財政的に支援した結果、世界の債務水準は過去半世紀で最高となった。ヴィジュアル・キャピタリストの記事「Visualizing the State of Global Debt, by Country(国別の国家債務を可視化する)」は、IMF(国際通貨基金)が発行した最新のWorld Economic Outlookレポートから、国別の債務残高対GDP(国内総生産)比のデータをまとめたものである。

 債務残高対GDP比の上位は、日本、スーダン、ギリシャで、いずれも200%を大きく超えている。以下、エリトリア(175%)、カーボベルデ(160%)、イタリア(154%)と続いている。

債務残高の対GDP比

出所 ヴィジュアル・キャピタリスト

債務残高対GDP比の上位のランキング

出所:ヴィジュアル・キャピタリストのデータから石原順作成

 政府債務の急増は大きな懸念材料とされているが、果たしてGDPに対する債務残高が高い場合、何が問題なのか。

 一般に、債務残高の対GDP比が高い国ほど、債務不履行に陥る可能性が高く、市場に金融パニックが発生する。世界銀行は、債務残高対GDP比が77%以上の国が長期にわたり、経済が低迷しているとの調査結果を発表している。

 パンデミックは、世界の債務危機を深刻化させた。IMFの報告書によると、少なくとも100カ国が保健、教育、社会保護への支出を削減しなければならなくなる。また、発展途上国の30カ国は、債務の返済が非常に困難な状況にあることを意味する高水準の債務苦境に陥っているという。

 この危機は、先進国よりも貧困国や中所得国に大きな打撃を与えている。先進各国は財政刺激策のために借金を拡大しているが、中低所得国にはそうした余裕はなく、世界的な不平等を拡大させる可能性がある。不平等や不均衡はなにかしらの混乱を引き起こす可能性を秘めている。

 近い将来、通貨インフレという詐欺的増税が到来するだろう。歴史的経験が何かを教示してくれるとすれば、それは私有財産が文明と密接に絡み合っていることだ。われわれは社会主義化する世の中の新しい現実に備えて、資産防衛の準備をするしかない。

偶然ではなく、アドレナリン注入で実現した米国の成長

 先月27日に発表された米国の2021年10-12月期のGDPの速報値は、年率換算で前期比6.9%増と市場予想(同5.5%増)を上まわり、昨年7-9月期の2.3%増(確定値)から成長が加速した。GDPの7割を占める個人消費が前期比3.3%増と勢いを増したとしている。2021年の成長率は前年比5.7%増と、1984年以来、37年ぶりの高さとなった。

 このGDPを受けてバイデン大統領が次のようにツイートした。

バイデンのツイート

出所:Twitter

「これは偶然に起こったのではない。われわれが行った政策により、昨年はこの40年で最速の経済成長を達成した」

 バイデンは誇るように数字を強調しているが、2021年について「約40年ぶりの経済成長」と語るのは誤解を招きかねない。大規模な落ち込みからの回復は「成長」ではない。米国のGDPは2020年にマイナス3.5%となった。2021年に5.7%増となったとしても差引は2.2%、これは反動に過ぎない。

 また、長引く供給不足から企業は昨年、堅調な需要に在庫で対応してきた。企業は在庫の積み増しを再開し始めている。第4四半期の実質GDPの6.9%増のうち、在庫の積み増しによる寄与が4.9ポイントだったことを考慮すると、これは特殊要因であり、2022年以降に剥落することが考えられる。

 この成長を前述の最大の赤字という文脈で捉えると、バイデンのツイートが誇示しているのは、負債と金融緩和によるアドレナリンを最大限に経済に注入したということであろう。

 バイデン政権の中央計画経済的な社会主義政策の経済では、経済格差、金融不安、必需品の価格上昇、インフラの崩壊などによって、経済と社会が空洞化している間、米国のGDPは急上昇するのである。

2月相場は「いってこい」!?

 2月のS&P500種指数のパフォーマンスは、過去10年間で7勝3敗、過去20年間で11勝9敗となっている。

S&P500のシーズナルパターン 

出所:投資アノマリーカレンダー2022(パンローリング)

 2月の相場は10~12営業日で天井をつけて、「いってこい」となるシーズナルパターンとなっているので、注意が必要だろう。

米国株の2月のシーズナルパターン

下の目盛りは営業日(土・日を除く)
出所:トレーダーズアルマナック(パンローリング)

 先週のレポートで、「逆張り派もCNNマネーの恐怖と欲望指数が『20』あたりまで低下するまでは、押し目買いをためらっているという」と書いたが、なんとも中途半端な相場である。

恐怖と欲望指数 2022年2月9日

出所:CNNマネー

恐怖と欲望指数の推移(2019~2022年)

出所:CNNマネー

2月9日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 2月9日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、土居雅紹さん(楽天証券 株式・デリバティブ事業部長)をゲストにお招きして、「米国株、何をどこで買うか!?」・「ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの凄さ」・「インフレでキャシー・ウッドと孫正義は苦戦中」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

2月9日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube