消費的支出

 さて、一般に、人間がお金を使う理由は、より多くのお金を得るためではない。お金は、あくまでも「手段」であり、「目的」ではない。そして、お金は使うためにこそある。

 経済学的な言葉を使うと「効用」を得るためということになるが、もっと平たく「幸せ」のためにお金を使うのだと考えていいだろう。

 さて、幸せのためにお金を使うとして、ここでも「時間」が関係する。1つには時間が無ければ使えない使途があるし、もう1つには、人生の時間のどの時点でお金を使うかという支出の「時間的配分」の問題がある。

 前者に関しては、短くは食事をするにも時間がいるし、旅行にも時間や場合によっては体力が必要だ。また、住み心地のいい家を楽しむにも時間がいる。

 人生の時間の中でどこに支出を配分するかという問題は、なかなかに複雑だ。

 多くの人がイメージしそうな理想の人生設計は、「思い出に残るクライマックスがあって、最後もそこそこに豊かな人生」ではないか。行動心理学者のダニエル・カーネマン氏の提唱した「ピーク・エンドの法則」によると、人はひとまとまりの過去の経験をピークとなった出来事と終わりがどうなったかの主に2点で評価するという。これを人生に当てはめると、何らかの輝かしい達成があって、最晩年が豊かな人生が良さそうに思える。

 もっとも、これは「人生を後から振り返った評価を想像すると」という前提の評価であり、実際には、先ず(1)いつ有効にお金を使えるチャンスがあるか、という「機会」の問題があり、(2)他人と自分とを比較する「相対評価」の問題があり、人生の時々の過程では(3)自分の過去との比較も幸福感に大きく影響するだろう。

 こうして考えてみると、「お金の有効な使い方」は人生の幸福感を大きく左右する大問題で、同時に難問でもある。比較してみると、「金融資産の増やし方」といった筆者が日頃扱っている問題がいかに簡単なのかが分かる。

 とはいえ、繰り返しになるが、お金は使うためにある。投資的な支出についても、消費的な支出についても、有効に使える機会を逃さずに、大いにお金を使うといい。