海外からの流入、オンショアとオフショアの壁

 中国国債にも海外から資金が流入しています。こちらは11月のデータですが、海外投資家による買入額は879億元(1兆5,646億円、データはチャイナボンド)で1月以来の高水準です。外国人の中国国債保有額は過去最大の2兆3,900億元(42兆5,420億円)に膨らんでいるそうです(12月9日、「ブルームバーグニュース」より)。

 下の図は2021年に入ってからの人民元対ドルレート(基準値)の推移を示したものです。10月に入ってから、人民元高が進んでいます。中国恒大集団(03333)のデフォルトが懸念された中で人民元が上昇していることに着目してください(12月20日は利下げがあったので下落している)。

図:人民元対ドルレート(基準値、日次)

注:直近データは21年12月20日
出所:中国人民銀行

 恒大集団は9月以降、フィナンシャルアドバイザーや法律顧問とともに、資本ストラクチャーや資金流動性の状況について分析・評価を行っており、それをもとに債権者と話し合いを続けています。企業リストラを行い処理しようとしています。

 その話し合いに、広東省政府は作業チームを派遣しています。当局のサポートの下で、個別案件ごとに払えない金利、元本をどうするのかについて、粘り強い話し合いが行われています。厄介なのはあくまで外貨建て債券だけです。

 中国の金融システムはオフショア、オンショアの壁がはっきりと設けられています。香港などのオフショア(海外)市場で起きているデフォルトはあくまでも国際ルールに基づいて処理されるでしょうが、オンショア(国内)市場では国内の監督管理スキームの中で処理されます。

 今回のデフォルト騒ぎは、恒大集団が当局の指導から大きく逸脱した拡大路線を長年続けてきた結果です。“住宅は住むためのもので、投機の対象ではない”。

 同社など一部の不動産開発企業が投機を助長するような拡大戦略を続けてきたのですが、これ以上許容できなくなった中国共産党が、国家権力によって、唐突に財務面での規制を“後付け”するといった強硬手段で、バブルを退治し、同社をはじめ行儀の悪い企業を厳しく粛清しようとしているというのが実態です。

 当局の主導により現在のデフォルト騒ぎが起きている以上、当局は用意周到に作業を進めています。中国の銀行は4大国有商業銀行、交通銀行(03328)中国郵政儲蓄銀行(01658)、国家投資公司系の商業銀行、地方政府による都市銀行から末端の農村信用合作社に至るまでほぼ実質的な国有セクターで占められています。

 民営で大きなところといえば、民生銀行ぐらいですが、その民生銀行であっても中国銀行保険監督管理委員会、中国人民銀行から細かい規制を受けています。

 中国の銀行が自らの利益の最大化だけを貫くようなことはできません。中国共産党が金融市場の安定を高度に重視している以上、銀行はその任務を遂行しなければなりません。

 貸し渋りも、貸しはがしも到底許されず、債務不履行リスクも経済に影響が出ると当局が判断すれば、追い貸しでも、モラトリアムでもあらゆる方法をもって対処されることになるでしょう。

 ポイントを整理すれば、中国国内の金融システムはオフショア市場を介して部分的にしか対外開放されていません。国内において銀行は国家による強い統制といった枠組みの中でのみ、自由な経営が許されています。バブル崩壊はぜい弱な金融システムに起因するところが大きいのは、日本の例を挙げるまでもありません。

 こうした中国金融システムの特徴を欧米機関投資家が知らないはずはありません。だから、彼らは恒大集団のデフォルト騒ぎの中で、人民元資産を買いに出たのだと考えています。