資本市場改革の進捗

 もう一つの資本市場改革についてですが、11月15日から北京証券取引所で実際の取引が始まりました。それから7営業日目に当たる23日の売買状況を示しておくと、取引のあった78銘柄(3銘柄が売買停止)すべてで値が付いています。

 7銘柄で1億元(18億円、1元=18円で換算、以下同様)以上の売買高があり、最も少ない銘柄でも262万元(4,716万円)ありました。主だった銘柄について、ざっと短い日足チャートをみても、新興市場にしてはそこそこ売買されているといった印象です。

 北京証券取引所は習近平国家主席が直接言及して設立に至った新興市場向けの取引所です。米国ではトランプ政権末期の昨年12月、外国上場企業に対する規制を厳しくする法案「外国企業説明責任法」が成立しました。バイデン政権に変わって、撤廃されると期待されたのですが、そうなりそうにありません。

 米国市場から中国企業が排除されかねない中で、中国としてはどうしても国内の資本市場を強化しなければなりません。

 こうした外交戦略上の必要性があって、深センの創業板、上海の科創板に続き、これまで第三の市場と称されてきた店頭売買市場を強化する形で北京証券取引所が開設されたのです。

 こちらのチャートは深セン創業板指数です。ご覧の通り、北京証券取引所の取引開始前からしっかりとした上昇トレンドが出ています。新興市場全体に資金が回っていることが分かります。

創業板指数(日足)

出所:取引所データから筆者作成(直近データは2021年11月23日)

 泥臭いことを言えば、当局も、証券会社も、機関投資家も、大きな国家政策が背後に存在する以上、北京証券取引所の立ち上げを何としても成功させなければなりません。幹部たちの人事権が実質的に共産党の内部にある以上、彼らの“出世”に関わるからです。

 きれいな言葉で言い換え、まとめると、国家が進める“多層から成る資本(プライマリー)市場の形成”が進むことでセカンダリー市場が活性化されるということです。

 そこに上場する電気自動車、新エネルギー、新素材、ITなどのハイテク企業はイノベーションを支える企業ばかりです。

 もちろん、企業あっての資本市場です。上場した企業は調達した資金を有効に使い、大きく成長しなければなりません。しかし、イメージとしては、国家が全力でサポートしながらベンチャー企業を育て上げるといったところです。

 本土市場への影響は言うまでもありませんが、中国の長期的な発展力が強化されるのであれば、香港市場に対しても当然それは好材料です。

 米国としては中国企業を米国市場から追い出そうとした結果、中国に独自のイノベーションシステムを強化する動きを加速させてしまいました。

 米中の経済システムは今後、さらに相いれない形に分岐していきそうですが、米国政府は果たしてこれを阻止し、中国の発展を遅らせることができるでしょうか。できるとすればどんな方法があるのでしょうか。

 米中関係はどんどん複雑な局面に入り込んでいきそうです。

 香港市場の見通しについて一言付け加えておきます。本土要因よりも、国際要因の方が心配です。