Q:ズバリ、お聞きします。アセット・アロケーションなどで使用する株式投資の「期待リターン」はどうやって決まっているのですか? 山崎さんの場合は、どうしていますか?

A:(ああ、ついにここに来たか!)

 決して開き直るわけではないのですが、株式投資に想定する期待リターンは「社会的に決まっている」というのが私の答えです。

 株式の期待リターンを直接的に推定する決定的な方法はありません。例えば、益利回り(PER[株価収益率]の逆数)に長期的な利益成長率を足し合わせた数字を、「株式が投資家に提供し続ける事が出来る利益」だと考えて、期待リターンを概算するようなことは何重にも仮定を置いた株式リターン推定法として考えることは一応出来ます。例えば、「PERが25倍で益利回りが4%で長期成長率が2%なら期待リターンは6%だろう」とか「PERが12.5倍で長期成長率がマイナス2%なら、やはり期待リターンは6%だろう」といった具合です。

 大まかに、株価水準と成長率について考えることは出来ますが、どちらに対する判断も正確で自信の持てるものには(誰にとっても)ならない。

 兆円単位の他人の資金を運用する年金基金のような責任ある立場の投資家たちも、率直に言って、(1)あれこれ考えたふりをしつつ、(2)周り(他の投資家)を見ながら、(3)鉛筆を舐めるようにして、(4)業界内で常識的なリターンを期待リターンとする、というのが実態です。

 彼らの立場からすると、広い範囲の他人の資金の運用を受託している以上、世間的・業界的な水準からかけ離れた期待リターンを仮定することに、責任が取れないとも言える。

 実のところ、プロでもこの程度のものなのです。

 このように、「多数決±α%」(αは少しだけ加えた独自のアレンジ)くらいの水準に期待リターンが決まる。学者や実務家の、長年の多数説の水準はリスクフリー金利に5%から6%くらいのリスク・プレミアムを足した水準です。言わば、この辺が「相場」だというわけです。

 私の場合、著書や記事では、「期待リターンは、実質的に社会的に決まるようなあやふやなものだが、相場はこれくらい」と正直に説明することもあれば、「年金基金や信託銀行など、機関投資家の運用計画の数字を参考にしました」と説明することもあります。

 正確な数字は出しようがないので、やや控えめに「株式の期待リターンは無リスク金利プラス、リスク・プレミアム5%くらいで考えよう」、今は無リスク金利がほぼ0%なので、「株式の期待リターンは5%で考えておきましょう」とすることが多い。この程度で、個人の運用の意思決定には十分だと思っています。

Q:株式投資は、長期で行えば、絶対にリスクに見合って儲かるものなのですか?

A:(最後に来たのが、情けない質問でした)

 いえ。そんなことは言えません。

「長期で持てば絶対」を市場参加者が信じると、株価は将来の期待値に近い水準にさや寄せされて、リスク・プレミアムが無くなってしまうはずです。

 どこまで行っても、株式投資は、「損をするリスクがあるからこそより、儲かるのではなかろうか」と期待して行う賭のような営みです。

 やるかやらないかは、あなた次第です。やらなくても困るわけではないし、やって損をしてもお金で済む話です。