恒大事件に垣間見る中国人の資産運用をめぐる特徴

 ここからは、中国恒大が陥った債務危機をケーススタディーに、中国人の資産運用について改めて掘り起こしていきたいと思います。以前も、本連載で2回分、このテーマについて扱いました(中国人の資産運用ってどうなってるの?実は、超投資先進国!?「理財」の9割が投資信託か。高いリスク許容度:中国人の資産運用はどうなってるの?(続編))。

 その中で、私自身の知人へのインタビューを通じて、中国人の資産運用をめぐる特徴として、次のような点を洗い出しました。

・中国では資産運用のことを「理財」(「財産を管理すること」)と呼ぶ
・中国人の「フィナンシャルリテラシー」は総じて高い
・中国人はリスクヘッジをしながら、自らの身の丈、性格、価値観、家族・親戚構成などに応じて多種多様、臨機応変な資産運用を行っている
・中国において「理財とは人生」、終わりはない。資産運用を通じて人生を豊かにする、家族を幸せにする。そこには儒教の「孝」、すなわち親孝行という目的も体現されている
・中国人の「理財」には政治がつきまとう

 中国恒大の債務危機が過熱化するに伴い、同社が本部を構える広東省深セン市などで抗議活動が起こっています。抗議者たちは、同社に対し「カネを返せ!」、「詐欺だ!」などと叫びながら、デモ行進や座り込みを行っています。実際、同社は資金繰りの一環として大量の「理財商品」(中国国内で販売されている高利回りの金融商品。投資信託に近い)を販売してきましたが、7万人を超える(個人)投資家が損失や償還遅延に見舞われています。また、100万人以上が、同社が関与する住宅建設の遅延や停止による影響を受けています。

 私の周りにも、同社の理財商品、住宅、そして株を購入したことのある知人がたくさんいます。彼ら・彼女らと話をしていると、「急速な事業拡大は問題だとは思っていたが」、「ただそれをやっているのは恒大だけではないし」、「銘柄としては有力だと思っていた」などという声が聞こえてきます。本件に対する見方はさまざまですが、共通していたのは、彼ら・彼女らの手元にほとんどキャッシュ(現金)がないという現状。この「キャッシュを持たない」、言い換えれば、「資産を恒常的に運用する」という点は、上記の中国人の資産運用をめぐる特徴に書き加えるべきでしょう。

 私が見る限り、中国の人々は、銀行預金にすら極めて消極的です。生活に必要な最低限の額は預金口座に残し、キャッシュレス決済の代表格であるウィーチャットペイ、アリペイに随時引き落とせるようにしておく程度です。それ以外は、理財商品を買う、株に投資する、不動産を買うなどして、家族や人生のために投資をするのです。私の周りで、不動産を居住目的だけで購入している知人は皆無で、皆多かれ少なかれ投資目的で動いています。もちろん、不動産は大きな買い物ですから、一般人の人生にそう何度も訪れる局面ではないでしょう。そう考えると、やはり利回り、期間、金額などを分散させつつ、常時、複数の理財商品を購入するというのが、多数の中国人民にとって最も身近な資産運用であるように思われます。

 今回の中国恒大事件の背景に、中国人の資産運用をめぐる特徴が如実に影響していること、なぜ抗議者たちが憤るのかが見て取れるでしょう。