中国当局は恒大事件を軟着陸させ、ポイント稼ぎしようとしている?

 9月も中旬になり、「恒大破産か!?」といった議論が広まるようになると、13日、同社は自社のサイトで声明文を発表し、次のように短く表明しました。

「最近ネット上で見られる弊社が破産する、合併されるという言論は全く正しくない。弊社は確かに現在未曾有の困難に直面している。しかし、企業主体としての責任を断固履行する。全力で生産に取り組み、住宅の受け渡しをしていく。全ての手段を尽くして正常な経営を回復し、顧客の合法的な権利と利益を保障する」

 18日、声明を具現化するかのように、同社は満期を過ぎた理財商品について、現金に代わり不動産資産の大幅値引きという形で返済する手続きを開始。投資家は住宅物件が28%、オフィスが46%、駐車スペースは52%のディスカウント価格で不動産投資が可能になり、既に購入した住宅の支払いについて割引を受ける選択肢も示されました。現金で返済を望む場合は、四半期ごとに金利と元本の10%の支払いを受ける選択も可能だとしています。

 当局側の動きですが、上記のように、事態を軟着陸させるべく、恒大側を水面下で監視監督しつつ、事態を「静観」しているのが現状です。9月15日、記者会見で本件に関して質問された付凌暉(フー・リンフイ)報道官は、「全体的に見ると、一部の大手不動産企業の生産経営過程にいくらかの困難が出現しているが、業界全体の発展に及ぼす影響についてはもう少し観察しなくてはならない」とし、不動産市場全体への影響は顕著ではないと示唆。

 8月19日には、人民銀行と銀行保険監督管理委員会が同社の幹部を呼び寄せ、経営の安定化、債務リスクの緩和、不動産市場と金融の安定などに尽力することなどを求めると同時に、この期間、事実とは異なる情報を伝播しないようにとくぎを刺しています。特筆に値するのは、同社幹部を呼び寄せた当局が、不動産業界の主管部門である住宅建設部ではなく、人民銀行と銀行保険監督管理委員会だった事実(2019年、包商銀行の公的管理を主導した2大組織)です。共産党・政府指導部として、恒大債務危機がもたらしうる影響は不動産業界・市場を超え、金融システム、サプライチェーン、実体経済全体に広がり得るリスクをはらんでいると捉え、対策を練っている状況証拠と言えます。

 習近平(シー・ジンピン)総書記率いる共産党指導部が、最も懸念しているのが「人民の動向」にほかなりません。キャッシュを持たず、理財商品や不動産に人生を賭けて投資してきた人民は、現在も中国全土で抗議活動を繰り広げています。集会の自由が実質認められていない中国では、あらゆる種類の抗議デモは往々にして当局によって抑制されます。ただ、今回に関して言えば、公の道路でデモ行進したり、恒大本社に詰め寄せ、座り込む人民を当局は抑え込もうとしていません。一定の治安や秩序を守るべく警察を動員しつつも、人民に好き勝手に暴れさせています。

 どういうことか。

 当局として、恒大の放漫経営によって被害を被った人民側を抑え込もうとすれば、批判や抗議の矛先が自らに跳ね返ってくる事態を懸念しているからです。要するに、上記で、生かす(救済)か殺すか(破産)の二者択一ではないという観点から問題提起した点に関して、当局として最も重視するのが「人民にどう映るか」だということです。昨今の一連の規制強化策にもにじみ出ているように、低所得者層に寄り添う政治を展開してきた習近平政権ならなおさらです。

 そう考えると、当局が、目下「人民の敵」と化している恒大に巨額の公的資金を投じる形で同社を救済することはしないでしょう。一方で、同社に破産されてしまえば、路頭に迷う人民が大量に出現するリスクが高い。さすがの中国共産党も、恒大債務危機で損失を被り、路頭に迷う人民に対して直接現金を配ることはできません。債権者に一定の代償を払ってもらいつつ、ギリシャモデルを応用する形でステークホルダーへの説明責任を果たしつつ、事態を軟着陸させることを考えているのではないでしょうか。私の分析によれば、中国当局は、恒大債務危機への対処を通じて、対自国民、海外投資家へのアピールという意味でポイントを稼げると踏んでいます。