裁定売り残に表れる、投機筋の日経平均先物「空売り」の動向

 詳しく説明すると難解になるので、説明は割愛して結論だけ述べます。東京証券取引所が発表している「裁定売り残」の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「売り建て」の変化が表れます。また、「裁定買い残」の変化には、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「買い建て」の変化が表れます。買い建てが増えると裁定買い残が増え、買い建てが減ると裁定買い残が減ります。以下をご覧ください。

日経平均と裁定売り残・買い残の推移:2018年1月4日~2021年8月13日(裁定売買残高は8月6日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 2018年以降の、裁定売り残・裁定買い残の変化から、投機筋の動きをレビューします。

【1】裁定買い残高が高水準だった2018年
 上のグラフを見ていただくと分かる通り、裁定買い残高は、2018年初には3.4兆円もありました。この時は、「世界まるごと好景気」と言って良い状況でした。したがって、投機筋は世界景気敏感株である日本株に強気で、日経平均先物の買い建てを大量に保有していたことがわかります。

 ところが、2018年10月以降、世界景気は悪化しました。投機筋は、日経平均先物を売って、買い建て玉をどんどん減らしていきました。

【2】売り残を積み上げた後、踏み上げがおこった2019年
 2019年には製造業を中心に中国や日本の景気が悪化しました。それを受けて、投機筋は日経平均先物の売り建てを増やしました。そのため、裁定売り残が一時拡大しました。

 ところが、2019年10月以降、世界景気回復期待が高まって日経平均が上昇する中で、踏み上げが起こりました。日経平均先物を売り建てていた投機筋は、損失拡大を防ぐための、先物買戻しを迫られました。その結果、裁定売り残が減少しました。

【3】コロナショックで売り残が再び積みあがるも、踏み上げで減少に向かった2020年
 2020年、コロナショックで日経平均が暴落した1~3月、投機筋は再び日経平均先物売り建てを増やしました。裁定売り残は一時2.6兆円ちかくまで増加しました。ところが、その直後から、世界的な金融緩和と景気回復をうけて、日経平均は急騰し、ここでも先物の踏み上げが起こりました。

【4】裁定売り残・買い残とも低水準となった2021年
 2021年になり、裁定売り残・買い残ともに減少しました。投機筋は日経平均先物で勝負することを止め、日本株について「様子見」に転じたと考えられます。