「虫の目」は視野狭窄(しやきょうさく)、「鳥の目」は俯瞰(ふかん)主義。後者が必要であることは明白

「虫の目」とは、虫のように小さい目で狭い世界を見る「ミクロ」的な視点です。「鳥の目」とは、鳥のように高いところから複数の事象を一度に見渡す「マクロ」的な視点です。

 もともと、「虫の目」「鳥の目」の考え方は政治や経営の場で、大局観を見定めるためのツールだったとの説があります。「現代の」金相場分析においては、「虫の目」を持ち込んではならない、「鳥の目」が必要、と筆者は考えています。

「なぜ金価格が下がっているのか?」と筆者に問うた彼らの考え方は、どちらを軸にしているのでしょうか? 答えは「虫の目」です。「有事と言えば金高」、「株安と言えば金高」が合言葉だったあのころに醸成された強い自信がそうさせているのかもしれません。

 有事が起きれば(起きさえすれば)金価格が上昇する、株が下がれば(下がりさえすれば)金価格が上昇する、という「有事」あるいは「株安」のみに注目して、つまり材料を点で見て、分析を試みているわけです。材料を点で見ているから、イメージと価格動向の間に不整合が生じるのです。

 そもそも、イメージと価格動向、どちらが正しいのでしょうか? 数十年前に作られた、一個人のイメージでしょうか、それとも生産者、需要家、投機筋、中央銀行、個人投資家、そして金価格の動向に着目した株式投資家、通貨の投資家、暗号資産の投資家など、多様な投資家による膨大な注文の果てに成立した価格なのでしょうか。答えは火を見るより明らかでしょう。

図:金の価格推移 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 質問者の皆さんは筆者の大切な同僚です。ですので、彼らを批判する気は毛頭ありません。むしろ、彼らと同じ考え方の人を見かけたとき、筆者は彼らとの会話で得た知識を生かし、「材料を俯瞰しましょう=(鳥の目で見ましょう)」と、呼びかけるようにしています。

図:「虫の目」と「鳥の目」

出所:筆者作成