(6)コロナなど投資環境変化の影響

「ほったらかし投資術」では、市場が「効率的」で完璧に情報を反映しているとは考えていない。市場はしばしば間違えているはずだ。しかし、一方で、著者たちや専門家も含めて投資家が株価の正否や正しい投資タイミングを判断できるとは思っていない。

 一方、投資タイミングは判断できないとしても、「市場参加者は、リスクプレミアムを織り込む形で株価を形成しようとしているだろう」と考えており、市場の価格形成機能には期待を寄せている。

 新型コロナ・ウイルスの流行など、様々なイベントがあるが、都度都度の株価に「それなりに」反映しているのだろうから、投資家に出来る事は「自分にとって適切なサイズの投資リスクを保有しつづけること」以外にない。

 悩んでも改善につながらない問題について悩まないのが「ほったらかし投資術」の流儀だ。

(7)NISAやiDeCoなどの投資優遇税制口座

 2015年に「全面改定 ほったらかし投資術」(朝日新書)を出した理由は、投資商品の変化もあったが、主にNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の創設だ。

 また、その後に個人型確定拠出年金は対象者を拡大し、「iDeCo(イデコ)」という愛称が出来て、普及が進んだ。そして、2019年のつみたてNISAのスタートは、インデックスファンドの運用手数料の引き下げ競争を生んだので、「ほったらかし投資術」の実践者にとって大きなメリットをもたらした(改善幅は小さくとも「確実な改善」なので効果が大きい)。

 因みに、個人型確定拠出年金に関しては、iDeCoが登場する以前からオリジナル版「ほったらかし投資術」で利用を強く勧めていた。かつて、あまり利用されていない制度だったが、実は以前から有利な仕組みが存在していたのだ。

「ほったらかし投資術」は、iDeCoや各種のNISAをできるだけ大きく利用することを一貫して勧めていて、同時に、それぞれの制度での投資商品の選択方法についても説明している。

 基本的な考え方は、大規模な年金基金などで用いるマネージャー・ストラクチャーの管理方法の応用でほぼ一通りに決める事が出来るが、2021年時点での結論を手っ取り早く申し上げると、それぞれの税制優遇口座にインデックスファンドの運用を集中して、「ほったらかし投資術」の方式で手数料コストが安い内外株式のインデックスファンドに投資したらいい。厳密に比較すると差が出る可能性はあるが、インデックスファンドの手数料水準が下がったので、運用口座毎に商品選択を変えて使い分ける必要は、今やほとんどない。

 こうした制度に関しては、2024年から通称「新NISA」が導入されるという変化がある。新NISAは、いくらか複雑な制度でもあるので、そろそろ「公式本」(?)であるところの朝日新書版の「ほったらかし投資術」の三訂版が必要かと思っている。

「水瀬さん、そろそろ、いかがだろうか?」。

 もっとも、10年前の「ほったらかし投資術」の知識のままで運用していたとして、厳密には改善の余地があるとしても、ほとんどそのままで何の問題もなく運用の成果を得られていたはずだし、現在でも応用が利くことを強調しておきたい。オリジナル版の基本的な方法と考え方は全く古くはなっていない。「インフレ+高金利」といった世の中にでもならない限り今の方法が将来も「そこそこ以上に」有効であり続けるだろう(日本の長期金利が2%を超えたら、次の方法を考え始めようと思っている)。

 正しいポイントを一旦押さえてしまえば、資産運用に迷いは要らない。読者には、運用の問題を最小の努力で解決した上で、「運用以外の人生」を充実させる事にエネルギーを傾けて欲しい。