(3)「生活防衛資金」の額

 投資に回さず、生活する上で借金に頼らないで済むように取り置く資金を「生活防衛資金」と呼ぼう(この呼び名の由来については、トウシルの動画で説明したので、興味のある方はご視聴下さい)。

 これをどの程度確保して投資に臨むべきかについては、オリジナル本の共著者である水瀬ケンイチさんと、筆者の間で少々意見に隔たりがある。

 水瀬さんは、生活防衛資金を潤沢に確保することの精神安定効果を重視されて生活費の「2年分」程度を持つ事がいいと勧められることが多い。

 一方、私は、2年分の資金を貯めるにはそこそこの時間(数年?)が掛かるので、生活防衛資金は「3〜6カ月分」持てばよく、それで足りない場合は、インデックスファンドを必要な額だけ部分解約するといいと考えている。

 インデックスファンドは数日で現金化できるし、必要額を部分的に解約できるので、生活資金のニーズに応えるに十分な流動性がある。但し、例えば、自分の買値よりもファンドが値下がりしている時でも平然と解約できる「損得にこだわらない心」が必要だ。

 どちらがいいかは、本人の好み次第だ。難しい問題ではないので、読者が決めたらいい。

(4) 投資対象商品の選択

 過去10年あまりの「ほったらかし投資術」の変遷にあって、インデックスファンドの新商品の登場や既存商品の条件(運用管理費用など)の変化は重要な要素だった。そして、幸いにしてこの間、変化は投資家にとって好都合なものであった。

 2021年の筆者の近刊書籍では、外国株式は「eMAXIS-Slim全世界株式(日本除く)」、国内株式は「eMAXIS-Slim国内株式(TOPIX)」を選んだ。共に三菱UFJ国際投信の商品だが、対象とするインデックスと運用の仕組み、そしてコスト(手数料)で選んだ。率直に言って、他社の同類商品と大きな差はもはやないと筆者は考えている。

(5)積立投資に対する考え

 最初に「ほったらかし投資術」(朝日新書)を出した際には、積立投資に関して、いわゆる「ドルコスト平均法」についてリスク縮小やコスト低減などの投資上のメリットがあるとする誤り(金融論的には「誤り」なのだ)を糺すことに対して筆者は熱心だった。

 その後に金融論的な結論が変化したわけではないが、サラリーマンの積立投資のようなものは、「毎月最適な投資額が変化している(積立額だけ増えている)」と思うといいという理解と説明でいいのではないかと考えるようになった。理屈の上でも、現実的にも、これでいいと思う。ドルコスト平均法に、投資した金額のリスクを減少させるような「魔法」がないことに変わりはない。

 書籍としては、いくらか寛容で読者に優しくなったかも知れないが、少々意地悪な面白みが消えたかも知れない。どちらがいいかは、微妙だ。