「中国式人権」の中身を見てきましたが、要点は2つです。

(1)中国には中国が定義する人権がある
(2)生存権と発展権が最も重要な人権である

 人間の生命を守ること、物質的な豊かさを保障することが最優先事項として掲げられています。それ自体は問題ありませんし、立派な「人権」だといえるでしょう。問題は、これらを主張する一方で、近年、習近平(シー・ジンピン)体制の下で、新疆ウイグル自治区における少数民族、香港市民、および中国国内における政治的自由が著しく抑圧されてきている現状です。これらの現状が、西側諸国から「人権侵害」だと批判されているのです。ただ、中国共産党指導部は、王毅を含め、習近平体制の負の部分によって生じている人権の後退については、一切言及、承認しようとはしない。現体制下でタブー化しているのです。習近平体制ではびこる権力の一極集中や個人崇拝(すうはい)横行の副作用といえます。

 人権問題の定義や認識をめぐって、中国と西側諸国の間で根深いギャップが存在する現状が浮き彫りになっているのが見て取れます。

『オックスフォード辞典』は、人権とは「全ての人間が公正に扱われなければならない、特に自国の政府によって残虐的な方法で扱われない基本的な権利の一つ」だと定義しています。欧米や日本を含めた自由民主主義国家において、中国が最重要事項として主張する生存権や発展権を否定する向きや動きは見られないものの、人権が保護されているかを計る最大の基準は、信仰や言論を含めた政治的自由が保障されているか、そしてそれらが自国政府によって踏みにじられていないかに他なりません。

 このように見てくると、普遍的価値観としての人権保護という見地から、香港や新疆ウイグル自治区の人々の人権が、自国政府の強圧的政策によって脅かされていると主張する西側諸国と、香港、新疆で人権の見地から保護的政策を行っているという中国共産党の立場は、真っ向から対立すると言わざるを得ないのです。

 この真っ向から対立する意見や立場は、引き続き、政府の政策や世論の動向に確かな影響を与えていくことでしょう。そして、特に上場企業において、中国の人権問題をめぐる株主の意向は、これまで以上に複雑に企業活動に反映されていくのでしょう。中国というマーケットに参加するという意味で、「人権問題」というリスクが台頭すると私が指摘するゆえんです。