そもそも、中国にとっての「人権」とは何か?

 そもそも、なぜ中国と西側諸国との間で、国境を越えた企業活動をも窮地に陥れるような「人権問題」が発生するのでしょうか? 人権に国境は存在するのでしょうか? 中国との関係という次元で言えば、人権に国境が存在すると言わざるを得ません。この問題を掘り起こすためには、中国で定義、実践されている人権は何かを理解する必要があるように思われます。

 本レポートの最終部分では、「中国が定義・主張する人権とはそもそも何か?」を扱います。最近の動向からすると、今年2月、王毅(ワン・イー)外相兼国務委員(以下敬称略)が第46回国連人権理事会ハイレベル会議に、北京からオンラインで出席、演説した場面が参考になります。

 王毅は、人類が現在、新型コロナウイルスという共通の敵と戦っているという角度から発言を開始しました。

「1億人以上が感染し、200万人以上が命を落とし、1.3億人が貧困状況に戻ってしまった。不平等はグローバルに広がり、南北の格差は拡大し、発展権が新たな脅威にさらされている。人種差別主義や排外主義が一層台頭し、フェイクニュースや憎しみの言論が氾濫し、一部国家はコロナ情勢を政治的に扱い、他国に汚名を着せようとしている。その過程で、広大な途上国による、ワクチンを獲得するという正当な要求が重要視、満足させられていない」

 新型コロナウイルス対策こそが、中国の主張する人権がいかに守られているかを検証する最大の実験になること、米国こそが、中国が定義する人権に対する最大の挑戦者・脅威であり、中国として、人権という分野で、米国と断固勝負していく決意を持っていること、の2点がこの段落から読み取れます。

 中国共産党の人権をめぐる立場や定義を理解する上で、示唆に富むと私が解釈したのが以下の4点です。

(1)人民の獲得感、幸福感、安全感を増加させることが人権にとっての根本的追求であり、国家統治にとっての究極的目標になる

(2)「国連憲章」や「世界人権宣言」で定められた人権に関する崇高(すうこう)な目標や基本的原則を各国は順守、実践するべきであるが、同時に、各国の国情は異なる。歴史文化、政治制度、経済社会の発展水準にはギャップがある。各国は自国の国情と国民の需要に基づいて人権保護を推進していくべきだ

(3)人権の中身は全面的である。政治的権利もあれば、経済社会文化に関わる権利もある。その中でも、生存権と発展権こそが最も重要で、率先して守られるべき人権である

(4)人権は少数国家の特許ではない。他国に圧力をかけ、内政干渉の道具にしては決してならない。各国は国連憲章の主旨と原則を順守し、平等と相互尊重の基礎の下、人権に関する交流や協力を展開すべきである

 それぞれが意味するところを簡単に解説したいと思います。

(1)は、衣食住を含めた物質的豊かさが増えていることを根拠に、人権が保護されていると主張するものです。

(2)は、西側民主主義国家が定義する普遍的価値観などというものは存在せず、各国には各国の人権をめぐる定義や実践があってしかるべきだという主張です。

(3)は、人間が生存し、発展するための権利を保障すること、それこそが、政府が人権に対して施せる最大の貢献だという主張です。

(4)は、中国と米国にはそれぞれ定義する人権があり、両者の間に優劣はなく、平等に尊重されるべきものであるという主張です。