4:顕在化する高齢者の医療問題。少子高齢化は経済にとってはチャンス?

 中国では、特に都市部において夫婦の共働きが普遍的です。そして、子供の世話をしてもらうため、夫婦どちらかの母親に(あるいは交互に)、地方から出てきてもらい同居しているという光景が日常化しています。ただ一つ、その母親が病気などになった際、医療をどう受けるかという問題があります。医療保険が適用されるには、戸籍所在地の病院で治療を受けなければなりません。そのため、孫の世話をする高齢者が、医療費をすべて自費で賄わなければならないという状況が問題になってきたのです。

 これに対し、李克強は次のように答えています。

この問題は我々政府としても決意を固めて、徐々に解決していかなければならない。今年、政府は問診費の省をまたいだ直接清算の範囲を広げ、来年末には、すべての県が医療機構を指定し、問診費を含めた医療費をどの場所でも医療保険でカバーできるようにする。このことで、高齢者たちをこれ以上心配させるわけにはいかないのだ

 現在、中国において65歳以上の人口が総人口に占める割合は12%に達しており、「中レベルの高齢化社会へ突入した」というのが政府の定義です。少子高齢社会になっても、中国特有の、両親が共働きで、上の世代が下の世代の面倒を見るという構造は変わらないでしょう。そんな中、増えていく高齢者がいかに過ごすか、高齢者の生活状況をいかに経済成長に生かしていくかが、より重要になっていくのでしょう。

 李克強は会見の中で、「中国の高齢者人口は2億6,000万人に達していて、高齢者向け産業も一つの巨大な前途ある分野である、それは多様な需要をもたらすだろう」と指摘しているのも興味深いところです。中国には「養老(ヤンラオ)」という概念が普遍的で、高齢者が居住、生活する「養老院」や、それに付随する娯楽施設・サービスなどを含め、養老産業が最近注目を集めています。株式市場にも参入してくるでしょう。政府も、この分野における民間への権限委譲、規制緩和に動き始めています。

5:李克強が自覚する科学技術分野の遅れと閉鎖性

 全人代を扱った、前回前々回のレポートで、中国が第14次五カ年計画、2035年までの中長期戦略において、いかに技術力の自立自強を掲げているか、それをもって米中戦略的競争関係という新たな局面に立ち向かい、経済を持続可能に発展させようとしているかを議論してきました。この点に関して、李克強は会見で次のように語っています。

現在、我が国における社会全体の研究開発費のGDP(国内総生産)比率は依然高くない。特に基礎研究への投入は研究開発全体の6%しかない。先進国は通常15~25%に達する…科学技術が自立自強すること、科学者が奮闘、努力することは、国際協力や同業者間の交流と矛盾しない。閉鎖的になっては、前途はないのだ。中国は知的財産権を保護する前提で、各国との科学技術分野における協力を強化し、人類文明の進歩を共に促進していきたい

 李克強自身が、中国経済が欧米や日本など先進国の経済に比べて劣っている部分を、科学技術、特に基礎研究に見いだしている現状がうかがえます。後半部分の発言にあるように、今後、中国が技術力の自立自強を追求する過程で、どれだけ閉鎖的にならないか、研究や成果にどれだけの透明性を付与するかに私も注目しています。中国という国家の信用を勝ち取るために、この手の透明性はますます不可欠になってくるでしょう。