7:教育こそが中国を救う?
私自身、過去の18年間、中国の人々と付き合う中で切実に感じてきた点ですが、中国人が最も重視し、投資する分野の一つが子供の教育です。教育分野は、長期的に見て、魅力的なマーケットになっていくと確信しています。そこには決してなくなることのない、中国人の生きざまや国民性に立脚した需要があるからです。以前扱った不動産市場と同じ論理です。
李克強は次のように言います。
「教育と健康の関係は、すべての過程、そして国家と民族の未来に関わる。今回、全人代の代表団審議に参加した際、ある高校の校長先生が言っていた。現在、田舎の高校には良質な教師資源が欠けている、教師の待遇はよくなく、学歴も向上しないと。今年、我々は田舎の教師への研修に対する投資を増やし、彼らが仕事をしながら学歴を上げ、職場での評価を上げられるような政策を実施していく。また、都市部で働く農民工の子供に対しては、居留証さえ持っていれば教育を受けられる機会を享受できるようにする。家庭の状況や出身地が原因で、これらの子供たちをスタートラインで遅れさせるわけにはいかない。機会均等の中で、教育の均等は最大の公平であるべきだ」
文化大革命(1966~1976年)終了後、北京大学の学部で法律を、大学院で経済を学び、その後、国務院総理まで駆け上がった李克強だからこそ、教育が国家の発展にとっていかに重要なのかを、自分なりに理解しているのでしょう。
8:内需拡大と対外開放という「双循環」は両立するか?
記者会見の最後に李克強が語った言葉が以下のものです。私自身、最も考えさせられた文言でした。
「我々はより一層主体的に、サービス業を含めた対外開放を推し進める。外国企業が中国に投資する上でのネガティブリストを引き続き縮減していく。多くの外国企業が、中国のビジネス環境に注目しているのを私は知っている。我々は引き続き市場化、法治化、国際化のビジネス環境を構築していかなければならない。あらゆる努力を通じて、内需を拡大する中で不断に開放を拡大することで、中国が外国企業にとって重要な投資の目的地になること、世界の大市場になるというのが目標なのだ」
本連載でもたびたび扱ってきたように、現在、中国政府は「国内大循環」という内需重視の国家戦略を打ち出しています。ただ、「内需重視」=「外資軽視」につながらないか、中国の経済やマーケットが内向き、閉鎖的になるのではないかという懸念を呼び起こしてきました。李克強の返答はそれらを打ち消したいという動機に駆られて発せられたものだと解釈できるでしょう。
内需を拡大していく過程で、いかに外資の力を使うか。
対外的に開放すればするほど、内需が拡大するという(安倍晋三政権でうたわれた日本の「観光立国」戦略なんかもこの論理・動機で実施されていたといえます)“双循環”をどう構築していくか。外資が、購買力を増し、ますます多様でダイナミックな需要を放出するようになっている中国市場で生き生きとビジネスをし、収益を拡大し、中国の消費者もその過程で生活を豊かにするような局面が生まれれば、中国経済と世界経済がウィンウィンの関係を築けるようになっていくのかもしれません。