2:「6%は低くないよ」
自らが「政府活動報告」で公表した、今年の6%以上という経済成長率目標に関して、李克強は次のような描写をしています。少し長くなりますが、非常に重要なので引用します。
「我々は6%以上の成長と言った。6%は低くない。現在中国経済は100兆元に達したが、6%ということは6兆元。仮にこの数字を第13次五カ年計画初期(筆者注:2016年頃)に当てはめれば、8%以上の成長が必要なことになる。しかも、6%以上というのはやや低めに設定してある。実際の過程では、成長はもう少し高くなる可能性もある。我々は計画を定めているのではなく、市場予測を引導しているのだ。この予測が経済の回復的成長という基礎を固めることにつながり、高質量の発展を推進し、持続可能性を保持し、特に来年、再来年の目標につながることで、大きな上げ下げを引き起こさないことを我々は望んでいる。さもなければ、市場予測は混乱するだろう。一時的に成長スピードが速いことは安定を意味するわけではない。安定してこそ、経済が力強く回るのだ。中国のような巨大な経済は、将来を見据えて安定的に成長してこそ、長期的な前進が保持できるのだ」
前回レポートでも、国家統計局の局長級幹部の話を引用しながら指摘したように、中国政府として、新型コロナウイルスからのV字回復そのものよりも、李克強自らが主張するように、あえて低めに設定し、来年や再来年につながる、中国経済が安定的に運行している状況を内外で可視化していきたいということなのでしょう。長期的発展という観点から、スピードよりも安定感を重視しているということです。中国のような人口14億のマーケットにとっては、それすらも一筋縄ではいかない故の目標設定ということなのでしょう。
3:中国にとって雇用が最優先事項である独自の理由
中国政府が経済政策・運営の中で最も重視している要素の一つが雇用です。失業者があふれれば、社会不安がまん延し、それこそ中国共産党の正統性にとって脅威になる、人民が暴れだす可能性があるからです。
李克強は次のように言います。
「昨年、我々はマクロ政策を制定する際、不確定要素が多すぎたため、経済成長の目標を制定しなかった。ただ、何度も考え、議論した結果、雇用目標は制定することにした。900万人という数字である。我々は、プラス成長すべく尽力すると言ってきたが、実際のところは、900万人という都市部における新たな雇用を創出できれば、経済のプラス成長は実現できると考えていた。雇用が収入を生み、それが消費を促し、経済を成長させるからである」
そして、次のように続けます。
「今年、我々の雇用圧力は依然として大きい。都市部で新たに創出されるであろう雇用は約1,400万人。うち、大学卒業生は史上最高の909万人だ。それ以外に、退役軍人の雇用問題がある。2億7,000万~2億8,000万人いる農民工(筆者注:農村から都市部に出てくる出稼ぎ労働者)にも就業機会を与えなければならない。したがって、今年、我々がマクロ政策を制定する際に、やはり雇用優先の政策を堅持したのである」
中国の経済社会、そして政治にとって、雇用というファクター(要素)がどれだけ重要視されているかが露呈する指摘であることは一目瞭然でしょう。雇用あっての成長、経済の成長あっての政治の安定、そのためのマクロコントロールであり目標設定、という中国の政治経済学の論理と前提が見て取れます。中国経済やマーケットの状況や推移を見る上で参考するに値する国情なのです。