株価材料を整理:日銀ETF買い、米中関係、米国の長期金利上昇

 最後に、株価材料についても簡単に整理しておきたいと思います。

 まずは、前回のレポートでも触れた、「2月に入ってから日本銀行がETF(上場投資信託)の買い入れを行っていない」点ですが、株価が急落した26日(金)はさすがに買い入れを行っています。ここで意識されるのは前回の買い入れ(1月28日)との比較です。

 ポイントは2つあり、1つめのポイントは買い入れを行った株価水準です。今回は2万9,000円割れでしたが、前回は2万8,000円台の前半でしたので、前回よりも高い水準で買い入れを行ったことになります。

 そして、もう1つのポイントは買い入れ額が前回と同じ501億円だったことです。過去の買い入れ額を振り返ってみると、700億円~2,000億円台で購入した実績があるだけに、株価急落に対して日銀が何らかのメッセージを放つのであれば、もう少し買い入れ額を増やしてもおかしくはなかったわけです。足元では日銀が買い入れを行わないこと自体が憶測を呼んでいたため、「とりあえず買ってみました」感があるのかもしれません。そのため、金融政策の見直し内容が公表される3月19日までは、引き続き日銀のETF買いの動向が注目されそうです。

 続いては米中関係です。先週は米バイデン政権が中国依存からの脱却を視野に、半導体や電池、医薬品、レアアースの分野で供給網を100日内に見直す方針を打ち出しました。中国では今週末から全人代(全国人民代表大会)が開催されるタイミングでもあり、米国からの政治的な「ジャブ」と思われます。

 中国では政治イベントを通じて国威発揚のために内政・外交を問わず、強めのメッセージが発せられる傾向があり、今回の全人代でも、香港の民主派を排除するため、選挙制度の見直しが議論される見込みとなっています。バイデン政権誕生によって、米中関係の修復が進むという期待もありましたが、今のところ、関係改善に向けた動きよりも、対立を意識させる動きの方が目立っている印象です。政治的な材料は一日で方向性がガラリと変わり、読みにくい面がありますが、しばらくは米中関係の動向は株式市場の追い風にはなりにくそうです。

 そして、最後に先週の相場下落のトリガー(引き金)を引いた、米国の長期金利上昇についてです。確かに、金利の上昇は株式市場が抱えるリスクのひとつとして意識されていましたが、コロナ禍からの正常化に伴う景気回復の強さの表れであれば、ある程度の金利上昇は許容範囲で、「経済の正常化と金融緩和の両立は可能」とされてきました。

 それが、ここに来て米10年債の利回りの上昇ピッチが早まったことをきっかけに、「思ったよりもFRBの引き締めが早くなるかもしれない」、「金利上昇の要因が期待インフレではなく、実施金利の上昇によるところが大きく、悪い金利上昇への警戒が強まったかもしれない」、「まもなく成立が見込まれる米追加経済対策の財源として、国債の増発が想定されるため、債券市場が不安定化しそう」などのさまざまな思惑が一斉に絡んできて株式市場が消化不良を起こしたと思われます。

 市場はまだ状況を消化している最中ですので、今回の金利上昇によって実体経済や金利・物価の動向についての中期的な見通しシナリオに変化が生じたかどうかは、これから一定の時間を掛けて動向が決まってくると思われます。

 とはいえ、早期の金融緩和縮小の気配を感じただけで売られやすくなっている相場地合いであることには注意が必要です。「とりあえず売っておこう」の動きが集中すれば、先週のような株価急落の場面もあり得えますし、株価が反発できたとしても、直近高値が上値の抵抗になる可能性もあり、振れ幅の大きいもみ合いが目先のメインシナリオになりそうです。