チャイナ・フィンテックの今後を占う

 11月3日、IPOを目前に控えたアント社の上場延期が発表された背景と理由については、11月12日に掲載したレポート「中国アント、史上最大規模のIPO延期の理由。ジャック・マーは誰を怒らせた?」で扱った通りです。2日、中国人民銀行、中国証券監督管理委員会、中国銀行保険監督管理委員会、国家外貨管理局という4つの金融当局がマー氏らアリババ幹部を召喚し、業務指導、命令を下した経緯も紹介しました。この面談を経て、両者は上場延期という一点で合意を形成し、前述したように、マー氏率いるアント社は、仕事の重点を企業再建にシフトしていくことになります。

 具体的に、どのように再建していくのかを知る上で、極めて重要な意味を持つのが、昨年12月26日、11月2日と同じ4つの金融当局が再びアント社を召喚し、面談を行った事実、およびその内容です。

 面談ではまず、最近の中央政治局会議、中央経済工作会議にて、「反独占、資本の無秩序拡張防止を強化」すること、関連当局はこの方針に基づいて、金融分野における市場のプレーヤーを監督し、法律やルールへの違反行為が見られれば、厳格に処罰していくことで、公平な競争と金融市場における秩序が守られるという、党指導部が下した原則が伝達されました。

 面談において、当局側はアント側に次のように警告しています。

「アントグループは設立以来、フィンテック、金融サービスの効率と普及面でイノベーションをもたらしてきた。フィンテックとプラットフォーム経済の分野で重大な影響力を誇る企業だからこそ、アント社は国家の法律とルールを自覚的に順守し、自らの企業を国家の発展という大局に適応させ、企業の社会的責任を請け負わなければならない」

 アント社のフィンテック分野における貢献と実績を評価しつつも、同社が今後引き続き、上場も含めて発展していくのであれば、中国企業としての自覚を持ち、現在急ピッチで整備されている関連法律、制度、ルールを守らなければならないと言いたいのでしょう。

 4つの金融当局を代表して中国人民銀行の潘功勝(パン・ゴンシェン)副総裁が、面談の具体的な中身について一部を披露しているので、以下、私から見て重要な部分を紹介しつつ、分析を加えたいと思います。アント社、そして「チャイナ・フィンテック」の今後を占う上で重要だと思われます。

 まず、金融当局から見て、目下、アント社の経営における主な問題点は以下の6点です。

(1)コーポレートガバナンスのメカニズムが不健全である
(2)順法意識に乏しい
(3)ルールに基づいた監督管理を蔑視(べっし)している
(4)監視管理に違反する形で収益を高めようとする行為が見られる
(5)市場における優位性を利用して、同業者を排斥している
(6)消費者の合法的な権益に損害を与え、消費者からの告発などを引き起こしている

 かなり明確な指摘であると私は受け取りました。例えば、(5)などは、親会社であるアリババ社も調査、処罰を受けた「独禁法」に引っかかるというものです。

 そして、(6)ににじみ出ているように、金融当局として最も懸念するのは、一民間企業に過ぎないアント社の金融サービスが引き金となり、市場の秩序が乱れることで、広範な消費者の利益が損なわれ、結果的に、マーケットがパニック状態に陥り、金融当局の管理責任が問われる事態に他なりません。