IPO延期の裏に中国共産党の真意

 潘中銀副総裁は、チャイナ・フィンテックの未来について、次のように述べています。

「フィンテック及びインターネット上のプラットフォーム企業というのは新たな事物であり、イノベーションや進化は迅速で、多くの新たな特徴が見られる。金融管理機構として、引き続き、国際的に管理監督をめぐる交流や協力を強化していくつもりだ。フィンテックのイノベーションと金融システムの健全な発展を、国際社会と共同で推し進めていきたい」

 金融当局として、アント社を含めたフィンテック企業、分野を重視し、新たな事象だからこそ、情勢や問題を密に分析しながら、必要な法整備をしていく、その過程で、「先駆者」として突っ走ってきた同社には、先駆者ゆえの責任を担ってもらいたいということなのでしょう。私自身は、中国共産党指導部は、フィンテック、金融イノベーションといった分野を高度に重視し、経済成長のための原動力だと見なしていると確信しています。

 上記の点が修正されれば、アント社の上場復帰に向けて、金融当局が全面的に背中を押していくとも考えています。潘副総裁は、「引き続きアント社と密に意思疎通をし、同社の意見にも耳を傾けていく」とも言っています。ただ、今後、アリババ社やアント社は、ジャック・マーが作った、育ててきた、内外にアピールしてきた、中国が世界に誇るイノベーション企業という色彩を薄めていく、創業者の発信力ではなく、組織とビジネスの成熟性で勝負していくことを義務付けられると私は考えます。

「ジャック・マーのアント」ではなく、「アリババのアント」となり、馬雲がどこにいるかなんていう問題を誰も疑わなくなったとき、この企業は、真の意味で、中国が世界に誇る上場企業へと羽ばたくのではないでしょうか。