ジャック・マーが姿を見せないワケ

 この間、私もこの問いを巡って、中国の党、政府関係者と議論を重ねてきました。

 中国証券監督管理委員会の幹部は「アリババとアントの経営層は現在、12月下旬における我々との面談を受けて、一分一秒を惜しみながら、全勢力を挙げて企業再建を行っているはずだ」と現状を描写します。

 一方、数年前に公安部を定年退官した元局長級幹部は、「馬雲は国内にとどまって企業再建に尽力すべきと指導された。今後も一人の中国人として、中国の起業家として、中国市場で活動していくつもりなのであれば、そうすべきだ」と私に静かに語りました。

 さらには、俗に「太子党」「紅二代」などと称される、日中戦争や国共内戦を経て、中華人民共和国建国に貢献したとされる共産党や解放軍の高級幹部の子孫数名は、私に「馬雲はしばらく何も語らないほうが身のためだ」「彼がいま公の場に出ることによるメリットは何もない。馬にとっても、党にとってもだ」「アリババ、アントにとって、目下最大の課題は、我々からの指導に忠実に、中国の金融市場の健全な発展に符合する企業になるために、自らがリーダーシップを執って企業再建に努めること以外にない」などと、話してくれました。

 これらの言説に加えて、馬雲やアリババ社を長年取材してきた中国の経済記者、そして私自身のマー氏への理解を総合すると、馬雲は現在、中国国内で、公の場に姿を見せず、アリババ、アント社のコーポレートガバナンス、ビジネスモデルを含めた企業再建に集中しているのでしょう。アリババ創業前からマー氏と親交のある某企業家は、「さまざまな臆測を呼んだとしても、いまは公の場に出ないことが、彼にとって合理的な選択だ」と私に語りました。