高速取引(HFT)と公平性

 さて、本稿では、ことに上場株式について、株価は公平で安心だという趣旨を述べてきたが、最近、これを脅かす要因が現れてきた。高速取引(HFT)の登場と台頭である。

 HFTでは、まさに瞬きする間もない位の時間に売買が執行されるが、市場を認識し取引するスピードが一般の他の参加者と異なるために、一般投資家が見ている価格と板(個別株式の指し値注文状況)の状況が、現実の状況と異なって、正しく知られずに遅れているという格差が生じている。

 一般投資家から見る板は、現実には存在していない板である可能性があり、注文を出すスピードも異なることから、市場参加者間で、価格情報と取引の条件が事実上「公平」では無くなっている。

 この種の取引は、見かけ上の流動性(と取引所の口銭)を増やしているが、市場価格の情報伝達機能を改善しているわけではない。

 彼らの影響は長期に投資する投資家にとって大きなものではないが、HFT業者が存続し収益を得られる機会が安定的にあるとすれば、それは市場が不公平になったということだ。今後、取引所がこの問題をどのように考えていくかに注目したい。

【コメント】

 5年前の記事だが意見に変化はない。我ながら長い文章なので要点を述べると、(1)取引されている銘柄はいずれも「それなりの株価」が付いているので原則として有利不利はなく、(2)上場銘柄に対する投資は取引価格が分かって手数料の中抜きが明快な点が良く、(3)ネット証券のおかげで(手前味噌!)その手数料も極めて安い。そして、(4)生命保険のような中抜きが大きな商品とそれを売る人間には気をつけろ(いつもの話だ。付け加えるなら対面営業の外債販売にも要注意)。さらに、(5)HFTに少し注意せよ。
 過去の記事を読んで、5年前からHFTを怪しいと思っていたことが分かった。個人の長期投資家は原則として取引所の「寄り付き」で取引するのがサッパリしていていいと筆者は思っている。(2020年10月9日 山崎元)