ここ数年、米国のGAFAが話題になっていました。GAFAとはGoogle、Amazon、Facebook、Appleという、米国を代表するITプラットフォーマーのことで、まさに我が世の春を謳歌しているわけですが、これだって参入障壁という観点から厳密に見れば、それがあるところとないところに分かれます。

 たとえばグーグル。ここはもう立派に参入障壁を築いています。あのグーグルの向こうを張って、同じように検索エンジンを1から作り上げて、グーグルとの競争に勝てるなどと考える人は、まずいないでしょう。

 対して、GAFAのなかで最も参入障壁が低いビジネスを行っているのがフェイスブックだと思います。基本的にSNSは参入障壁が全くないビジネスです。その証拠に、日本にミクシィというSNSがありましたが、フェイスブックが普及した途端、簡単に駆逐されました。

 一部では、「フェイスブックにはネットワークエフェクトがあるので、それが最大の参入障壁だ」という意見もあります。

 ネットワークエフェクト、これは使う人が増えるほど便益が増えて、ネットワークの価値が高まる効果のことです。昔の電話がそうで、加入者が少ないと使うメリットがあまりありませんが、加入者が増えるほどいろいろな人と電話で連絡が取れるようになり、利用者の便益が高まっていきます。そして最後には、そのネットワークに入っていないと不便さを感じるようになり、一定の閾値に達したところで一気に加入者が急増していきます。これがネットワークエフェクトです。

 でも、フェイスブックにはそれがあるでしょうか。フェイスブックは70億人という世界人口のうち30億人が使っている巨大SNSプラットフォームですが、止めようと思えばいつでも止められます。最近では「SNS疲れ」によって、フェイスブックから距離を置く人も増えてきました。実際、自分がフェイスブックでつながっている人を見ても、もう何年も更新していない人が結構います。そのうえ、リンクトインのような新しいSNSもどんどん参入してきます。そういう産業において、「70億人のうち30億人が使っているので、フェイスブックにはネットワークエフェクトがある」というのは、恐らく嘘だと思います。私に言わせれば、あの程度のものは参入障壁でも何でもありません。

 それと同じ視点でいえば、ライドシェアビジネスを展開しているウーバーもリフトも、参入障壁なんかありません。あれらは単なるマッチングアプリであり、誰でもつくることが出来ます。だから、アメリカに行くとウーバーとリフトの両方に加入しているドライバーが大勢います。つまり参入障壁がないという何よりの証拠です。

 でも、ウーバーとリフトのドライバーが車に積んでいるスマホやタブレットの画面に映されているグーグルマップを提供しているのは、グーグルです。これは使わざるを得ないので、高い参入障壁があることになります。

 ちなみにフェイスブックは今、暗号資産である「リブラ」の発行計画を公表し、米中央銀行との間ですったもんだを繰り返しています。中央銀行としては、通貨発行権という巨大な利権を奪われたくありませんから、リブラには反対の姿勢を取っています。もし、世界30億人がリブラを使うようになったら、世界の基軸通貨である米ドルの地位が揺らぐ恐れが生じてきます。そんな訳で、まだ正式に発行できるかどうか分かりませんが、もしフェイスブックが暗号資産を発行するところまで行き着ければ、これは立派な参入障壁になるでしょう。その意味で、マーク・ザッカーバーグは経営者として優秀だと思います。

 このように参入障壁について思いを巡らせると、つくづく経営は参入障壁をつくるゲームであると思えてきます。通常、何もしなければ、参入障壁が崩れるのに1年もかからないでしょう。それを出来るだけ延ばすために、さまざまな投資を選択していくのです。コカ・コーラは間違いなくその成功事例のひとつです。

<『ビジネスエリートになるための教養としての投資』より抜粋>

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