「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」を運用している農林中金バリューインベストメンツのCIO「奥野一成」が、『ビジネスエリートになるための教養としての投資』を執筆、投資の本ながらビジネス部門で話題となっている。
投資と本来の投資のあり方とその哲学、長期投資のコツ、優良企業の見極め方などを、歴史的な背景や実例を交えながらわかりやすく解説するこの著書は、投資を今から始める人、投資の運用に困っている人にぜひ読んでほしい。
トウシルでは、この本の中から、ぜひみなさんに読んでほしい内容を10編ピックアップ。今回は9回目を紹介する。
それは本当に必要か?
付加価値が高いかどうかは、その製品やサービスが、人々にとって必要なものかどうかで決まると述べました。注意しなければいけないのは、それが時代とともに変化するケースがあるということです。
たとえば家電。きっと60年前であれば、家電メーカーの存在意義は非常に高かったと思います。60年前といえば1960年代です。この頃の日本は、高度経済成長のど真ん中です。1960年には池田内閣のもと、「国民所得倍増計画」が打ち出されました。これは1961年からの10年間で、実質国民総生産を倍増させることを目標に掲げた計画で、実際にそれ以上の成果を挙げました。
国民生活が豊かになれば、人間は快適な生活を求めるようになります。ちなみに日本の高度経済成長は1955年から始まったのですが、この時期「三種の神器」と喧伝されたのが、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫でした。確かに当時は、家電メーカーの存在意義があったのです。そのうえ、日本の家電製品は海外市場でもたくさん売れました。
しかし今はどうでしょうか。少なくとも海外市場においては、もはや日本の家電メーカーがシェアを大きく伸ばしていく状況ではありません。世界の家電マーケットは韓国、台湾、中国の製品に席捲されており、日本製家電製品は付加価値を失っています。アジア諸国の方が人件費が圧倒的に安く、同じ品質でも低価格で売ることが出来るからです。その証拠に、日本の家電メーカーの利益はほとんど伸びていません。これは鉄鋼業界も同じです。
そして、ゆくゆくは自動車産業もそうなりかねない状況です。世界中の自家用車の稼働率がどの程度か知っていますか? 自分たちが毎日どのくらい自動車を使っているかを考えれば、おおよそ察しがつくでしょう。何と、稼働率はたったの5%です。つまり95%は駐車場に停められているのです。そうなると日々動いていない95%を動かせば、これ以上自動車を生産する必要はないという考えに思い至ります。だから、カーシェアリングが注目されているのです。当然、そうなれば自動車メーカーは一気に付加価値を失うはずです。
でも、自動車にも例外はあります。フェラーリやランボルギーニといった「超」が3つくらい付くような高級車を製造しているメーカーは、これまでと変わらない付加価値を維持できる可能性があります。何しろお金持ちを相手にした商売ですし、お金持ちの一定層は、車としての機能以上にステータスとしてこの手の車を欲しがりますから、付加価値があるという話になるのです。
次に参入障壁とからめて考えてみましょう。高い付加価値を持っていて、かつ高い参入障壁を持ち合わせているのが最強のパターンですが、なかには高い参入障壁を築いているにもかかわらず、付加価値がない会社もあります。この手の会社への投資は、熟考する必要があります。
タバコ会社などはその典型的なケースです。特に先進国においては、タバコは健康を害するという理由で禁煙ムードが広まっています。そのようなマーケットに新規参入しようと考える起業家は、恐らく皆無に近いでしょう。30年先、50年先を見ても競争相手は出て来ないのではないか、とさえ思えてきます。その意味では、タバコ産業の参入障壁は非常に高いと考えられます。
では、付加価値の観点ではどうでしょうか。確かに、タバコは愛好者にとってはいくら値上げされても買いたいと思う必須財であり、現にタバコのリスクは昔から知られてきたものの、タバコ会社への投資が高いリターンを生んできた歴史もあります。しかし、いまやタバコを吸える場所自体がどんどん無くなっていますから、ますますマーケットは縮小していくでしょう。タバコ会社は業態を思い切って変更しない限り、少なくとも現状のままでは生き残るのが極めて困難になります。やはり、人の健康を確実に害すると言われているタバコという財に、付加価値が存在し続けると考えることは難しそうです。
<『ビジネスエリートになるための教養としての投資』より抜粋>
全編読む:『ビジネスエリートになるための教養としての投資』