では、本物の長期潮流とは何か? これは「不可逆的であると言い切れるもの」だと思っています。不可逆、つまり元には戻れないものということですね。

 たとえば人口動態はその典型例です。少なくとも2100年までの人口推計を見る限り、世界中の人口が増加していくのは間違いありません。

 あるいは古今東西を問わず、人々にある絶対的な長期潮流としては、「長生きしたい」という欲求があります。生まれた瞬間から「死にたい」と思っている人はいません。太古からの歴史をたどっても、人は必ず長生きしたいと思っています。人間である以上、それは普遍的な欲求です。人口が増加するということは、健康への需要が増加するということです。

 もうひとつ、思いつくままに申し上げますが、「国家財政は悪化する」というのも長期潮流のひとつでしょう。民主主義国家であればなおさらです。世界中が日本の財政悪化を批判しますが、民主主義国家である以上、米国もドイツも、イギリスも、フランスも、皆いつかは国家財政が悪化します。

 特に昨今は皆、どんどん長生きになってきていますから、医療費をはじめとする社会保障負担がどんどん重くなっています。しかも民主主義国家では、年金の既得権益者である高齢者が票を握っていますから、どれだけ国家財政が悪化したとしても、既得権益者は自分が持っている既得権を絶対に手放そうとはしません。だから、国家財政は民主主義国家である以上、どの国も等しく、いつかは必ず悪化するのです。よって、国家財政が悪化するというのも長期潮流であると考えられるのです。

 そして、「長生きしたい」という長期潮流と、「国家財政は悪化する」という長期潮流を掛け合わせた時、また別の長期潮流が生まれます。

 それは、カテーテル治療や内視鏡治療などの「低侵襲(ていしんしゅう)医療」です。

 もし、カテーテルが無かったら、心臓に病気が見つかった時、開胸手術をしなければなりません。開胸手術は時間がかかるだけでなく、患者の身体にも重い負担になります。当然、手術をしたら2週間くらいの入院生活を余儀なくされます。その分、国の医療費も出ていくことになりますから、高齢化によってこの手の患者が増えるほど、国家財政が圧迫されていきます。

 もしカテーテル治療で開胸手術をせずに済めば、カテーテル治療をした2、3日後には退院できますし、それだけ患者さんの身体的負担も軽くて済みます。結果的に出ていく医療費も少なくなるので、国家財政の面でも低侵襲医療の普及は非常に有益ということになります。

 このように「長生きしたい」と「国家財政は悪化する」という2つの長期潮流をかけあわせることで、低侵襲医療という別の長期潮流が生まれます。

 こうして長期潮流が導き出せたら、あとはどの会社に投資するかを考えるわけですが、恐らく多くの人はここで「カテーテルを作っている会社ってどこだっけ」と探し始めるでしょう。でも、カテーテルを作っている会社がどこも儲かっているかというと、決してそんなことはありません。何よりも大事なのは、高い参入障壁を築けているかどうかです。つまり高い参入障壁を持ってカテーテルを作っている会社こそが、長期潮流に乗れるという話になるのです。