参入障壁は色褪せやすい
「参入障壁」という言葉を耳にタコ状態になるくらいしつこく繰り返していますが、強靭な構造を持った会社に投資しようと思ったら、ここは絶対に外せない大事なポイントです。
参入障壁はニュートンの「万有引力の法則」ではないけれども、何もせずに放っておくと必ず落ちます。落ちそうになっているのを、いかにして再び活性化させるかが、参入障壁を築き上げていくうえで重要になっていきます。
ではどうすれば良いのか? もちろん経営力もありますが、やはり一番大事なのは投資です。いや、「経営力=投資」と言った方が良いでしょうか。参入障壁を築くうえで必要な投資を行うための経営判断力が問われてきます。
たとえば自社の参入障壁を維持するために、競合の会社を買収するなんてことは、その典型的なケースです。買収だって立派な投資です。その他に研究開発投資や設備投資、人材投資などあらゆる投資の方法を用いて、参入障壁を維持しようとします。
今、申し上げた企業買収や研究開発投資、設備投資、人材投資など会社として行っている投資活動は、すべて参入障壁を高くするために行われるべきものと考えておくべきです。ここで変な勘違いをすると、某ステーキチェーンのようなことになります。
そもそも、ステーキハウスそのものは、何の参入障壁もないわけですよ。誰だって新規参入できます。外食産業はどこもそうで、最初のアイデア一発でバーッと店舗を拡大して売上を伸ばし、中期的な利益を大きく膨らませて上場まで持っていく。基本、そこで終わりです。いわゆる「上場ゴール」ですね。上場したところがその会社のゴールで、あとは惰性で進んでいるだけ。最初にアイデアを考えた人は先行者利得が得られるわけですが、それは決して参入障壁ではありません。いくら多額の先行者利得を得たとしても、そのビジネスがおいしいということに気づいたら、必ず後発が入ってきます。そうなると、あとは価格の引き下げ競争が始まり、レッドオーシャンになって終わりです。
別に参入障壁という概念は難しいものではありません。大学院にいかなければわからないようなものでもありません。少しの好奇心をもって街を歩いているだけで気付くものなのです。街を歩いていると、居酒屋の看板が次々に変わっていることに気づきます。そんなところに参入障壁があるわけがないということです。
ちょっと話が逸れましたが、だからこそ某ステーキチェーンは、自分のビジネスには参入障壁がないということを理解したうえで、事業拡大の投資を行うべきだったのです。そこを理解していなかったから、中途半端な多店舗展開を行った挙句、売上が頭打ちになって苦しんでいるのです。
ただこれは、某ステーキチェーンをはじめとする外食産業に限った話ではなく、基本的にどのビジネスにも参入障壁を築くことは容易ではありません。どうやったら参入障壁を築けるのかを必死に考え、どの会社を買収すれば良いのか、どのような人を入れて戦力にすれば良いのかをひたすら経営者は考えるのです。先ほど、「経営力=投資」と言ったのは、こういうことなのです。