7月に注目したい新興株の動き

「12週連続上昇」という金字塔を打ち立てたマザーズ市場。前例なき優良地合いだけに反動も警戒されるなか、7月に入って変調をきたしています。そのきっかけが、2カ月半ぶりのIPO再開。IPO銘柄への露骨な資金シフトが、マザーズのその他銘柄にとって流動性低下要因になります。IPO株はいくら上がろうが、マザーズ指数構成銘柄ではないため指数寄与度はゼロ。逆に、マザーズ指数構成銘柄の流動性を吸い上げる意味では、マザーズ市場にはネガティブです。

 IPOが盛り上がれば盛り上がると、理屈上はマザーズ指数が下落します。そして、マザーズ指数が下げ始めると、「マザーズの地合いが悪くなったのか?」と感じる投資家が増えます(=センチメントが悪化)。そうなると、マザーズの下落に備えるため、マザーズ指数先物のショートポジションを作ったり、マザーズETFを空売りする投資家も増えるなど、市場にはネガティブな力がかかります。好地合いだったからこそ、IPOは要注意的存在。その点では、7月は15日に3社同日上場が予定されており、この前後は注意でしょう。

 あとは、高値圏での空中戦を繰り広げてきたアンジェスが、7月に入って急落しました。同じように、人気化していたPSSも急落。マザーズのシンボルストックの変調も気になるところです。長く人気だった銘柄が突然大きく下落すると、(長く人気だっただけに)逆張りの買いが入るのですが…7月に入って、それも飲み込み、さらに大幅下落する場面が出てきています。こうした動きが何度か起きると、本当に需給が悪くなります。信用買い残も積み上がっているため、こうした銘柄発の需給悪化が、何の関係もない別の新興株にも連鎖することはよく起きる現象です。

 一度崩れ始めると、例えば東証1部銘柄なら「PBR1倍割れたから買う」といった何等かのファンダメンタルズ的な下支えが機能しますが、マザーズのグロース銘柄にはそれがないわけです。何度も書いてきたことですが、新興株市場というのは、センチメントが一番大事。「株価が上がりそう!」というセンチメントが維持されていれば何とかなるし、お金がこの市場に向かっていて流動性が保たれれば何とかなります。マザーズ市場の売買代金が2,000億円前後であれば何とかなる…という点では、まだOK。ただし、月中平均で1,500億円を下回るなど、減少傾向が明らかになった場合は注意。「バスに乗り遅れるな!」から「バスから降りないと!」へセンチメントが変化したときの下げ方は本当に早いからです。

 流動性に注目と毎回書いてきましたが、その流動性という点では、7月は季節的に低下しやすい月になります。マザーズ市場の月間売買代金を調べると、昨年は前月(6月)比で7%減、2018年も10%減で、2017年が23%減、2016年が45%減でした。東証1部市場も同じなのですが、7月は1年の中でも売買が少ないシーズン。値動きも緩慢になりやすく、昨年7月の日経平均株価の上下値幅は、年間でも最小でした。こうした、商いも薄く、値幅も少ない状態を、株式市場では“夏枯れ”と表現します。

 先月まで活況だっただけに、夏枯れになった場合も、思った以上の反動につながる可能性があるため注意。また、足元でマザーズの主力企業が新株発行などで資金調達に動く事例が増えてきています。株価が高くなっている時期(かつ、コロナという言い訳が使える時期)に、こうした既存株主無視の資金調達が相次ぐようであれば、マザーズ市場の先行きは暗くなります。ここも、ファンダメンタルズ的な下支えがない(センチメント命)市場の弱点です。