その2、投資付加価値の境界線

 以下は、年金の運用など、主にプロどうしの運用に関わって発生する論点なので、少し話が込み入っているかもしれない。一般投資家読者は、「ベンチマークには、このような使い方もあるのか」と理解してくれたらいい。

 例えば、運用の委託者とファンドマネージャーの双方が低PBR(株価純資産倍率)を基準とするバリュー株運用(割安株運用)が有利であることについて意見が一致しているとしよう。

 この場合、運用の委託者は、単に「低PBR」というポートフォリオの属性から得られるリターンを獲得することは、低PBRを基準にして作ったポートフォリオをベンチマークとしてパッシブ運用を行うことで安価に実現できる。バリュー運用を得意とするアクティブ運用者をわざわざ雇う意味がない。

 バリュー運用のファンドマネージャーに対して、TOPIXをベンチマークとして与えたら、このファンドマネージャーは低PBRの属性をポートフォリオに持たせることで労せずしてアクティブリターンを稼ぐことができるかもしれない。

 しかし、運用の委託者が欲しいのは、単なる低PBR株ポートフォリオではなく、その中でよりよい銘柄選択や銘柄ウェイトの巧みなコントロールによってさらにアクティブリターンを付加してもらうことだ。

 この場合、運用の委託者は、低PBRを基準に作った何らかの具体的なポートフォリオをファンドマネージャーに与えることによって、低PBRの属性から来るリターンを期待するとともに、ファンドマネージャーが付加したリターンをより正しく評価することができるようになる。

 なお、運用の委託者が求めるポートフォリオの性質に合わせて、個々に作られたベンチマークのことを「カスタマイズド・ベンチマーク」と呼ぶ。運用委託者のレベルが上がると、カスタマイズド・ベンチマークによって、ファンドマネージャーの運用の付加価値をより狭い特化された範囲に追い込むことができる。例えば、俗に「スマートβ」と呼ばれるようなポートフォリオをカスタマイズド・ベンチマークに使うことが、年金運用などの世界では十分にあり得る。