自動車生産減少でも、排ガス浄化装置向け消費が減少しないのは、排ガス規制強化のため

 プラチナの消費に目を移す時、避けて通ることができないのが、自動車の排ガス浄化装置向けの消費動向です。2015年9月に発覚した、フォルクスワーゲンのスキャンダル(違法な装置を使い、不正に排ガス検査を潜り抜けていた問題)によって、ディーゼル車の需要が減退し、同車に搭載される排ガス浄化装置向けのプラチナの需要が減退するのではないか? という懸念が広がりました。

 スキャンダル発覚後、欧州では、実際に、ディーゼル車の生産台数が減少しました。ただ、プラチナの排ガス浄化装置向け消費が減少したかと言えば、減少はしたものの、2019年までの間、想像されたような急減は発生しませんでした。

図:自動車排ガス浄化装置向けの貴金属の消費量(世界合計) 単位:トン

出所:ジョンソン・マッセイのデータより筆者作成

 また、プラチナ、パラジウム、ロジウムを合計した、自動車排ガス浄化装置向けの貴金属の消費は増加しました。3つの貴金属合計で、自動車排ガス浄化装置向け消費は364トン(2015年)→420トン(2019年)に増加しています。

 自動車排ガス浄化装置向けの貴金属の消費は、世界合計で増加した一方、以下のグラフのとおり、スキャンダルが発生した2015年から2019年まで、世界の自動車の生産台数は頭打ちでした。

図:世界の自動車の生産台数 単位:台

出所:OICA(国際自動車工業連合会)のデータをもとに筆者作成

 自動車排ガス浄化装置向けの貴金属の消費は増加したものの、自動車の生産台数が頭打ちだったことを考える上で、自動車1台あたりの排ガス浄化装置向け貴金属消費量に目を向ける必要があります。

図:自動車1台あたりの排ガス浄化装置向け貴金属消費量 単位:グラム

出所:ジョンソン・マッセイおよびOICAのデータをもとに筆者作成

 この場合の自動車は、乗用車と商用車(バスやトラックなど)の合算ですが、先ほどの図のとおり、近年、乗用車も商用車、ともに生産は頭打ちでした。こうした条件の中、1台あたりの排ガス浄化装置向け貴金属の消費量が増加したのは、自動車業界全体に関係する“排ガス規制の強化”が原因と考えられます。

 排ガス規制は、先進国だけでなく、新興国も含め、幅広い国・地域で導入されています。排ガス規制を導入している国や地域では、数年ごとに、削減する有害物質の量や種類を、増やすことになっています。

 厳しくなる規制に対応するために、さまざまな工夫がなされていると考えられます。エンジンの性能向上(有害物質の排出そのものを低減する工夫)、そして、排ガス浄化装置の性能向上(やむを得ずエンジンから排出される有害物質を、可能な限り大気中に放出しない工夫)もその一つと言えます。

 世界の幅広い国・地域で、今後も、厳しさが増す排ガス規制への対応が続けば、仮に、新型コロナの影響等で、自動車の生産台数が減少したとしても、自動車1台あたりの排ガス浄化装置向けの貴金属の消費量の増加を理由に、排ガス浄化装置に用いられる貴金属は、大きな減少にならない、プラチナの同消費が一定程度、保たれる、などの事象が起きる可能性があると、筆者は考えています。