全力の資金繰り支援

 日本銀行は半年に一度、4月と10月に「金融システムレポート」を公表し、金融機関の経営状況やリスク管理の状況、⾦融システムの安定性評価と今後の課題などについて言及してきました。

 これまでも、金融機関の収益性が低いことや、低金利を背景にリスクに見合わない融資や投資が増えていることについて警戒感を表してきましたが、2020年4月の分析では、国内外の景気悪化に伴う信用コストへの増加リスク、⾦融市場の⼤幅な調整に伴う有価証券投資関連損益の悪化リスク、外貨資⾦市場のタイト化に伴う外貨調達の不安定化リスクについて、分析しています。

 リーマン・ショック時と同程度と仮定したストレステストでも、全体としてみれば、当時よりも高い自己資本を維持できるとみていますが、一方で、「今次局⾯では、ストレスの原因事象やその波及経路がリーマン・ショック時とは⼤きく異なっており、現時点では、今後の実体経済の落ち込み幅やその持続期間についての不確実性がきわめて⼤きいほか、⾦融市場の調整スピードの⾯では総じて本テストの想定を上回っている。」としています。

 実体経済からの落ち込みが金融面に波及する経路、金融市場のショックが金融機関経営にダメージを与える経路、そうした金融面のショックが実体経済に波及する経路など複合的な要因があるので、結局のところ、どうなるのかよく分からないというのが本音でしょう。

 こうした状況を受けて、金融政策決定会合では3月に引き続き、資金繰り支援が打ち出されています。

 国債の購入上限を事実上撤廃したことが大きく報じられましたが、これまでも80兆円をめどとしていた買い入れ枠を大きく余らせていたので、今すぐ国債購入額が大幅に増加するということではありません。

 むしろ、国債を大量に購入するとなれば、新型コロナウイルスの収束が後ズレした場合、政府が各種の支援策を実施するにも資金不足ということになりかねませんので、今後の状況次第ということになります。

 イールドカーブコントロール(YCC)は継続しているので、国債金利を見ながら購入していくという方針がより明確になったという見方をすることができます。その場合、新型コロナウイルスが短期間で収束すれば、日本銀行のバランスシート拡大に歯止めをかける一助になるかもしれません。

 注目すべきは、社債・CPの買入れ増額と新型コロナ対応金融支援特別オペの拡充というより直接的な資金繰り支援です。

 日本銀行の政策は、物価を安定させるための金融政策と決済の安定を維持するための信用秩序維持政策が両輪です。これまで、物価目標2%や日本銀行のバランスシート拡大といった金融政策が注目されてきた一方、世間的には、決済の注目度は低かったというのが実情だと思います。

 IMFも日本銀行も明らかに危機対応モードに移行しています。そうした状況と個人の資産運用の整合性をどう図るか。かつてない慎重さが求められる局面だと言えるでしょう。