踏み上げは起こるか?楽観シナリオと悲観シナリオ

 このまま日経平均の上昇が続けば、いずれ踏み上げ相場が始まることになります。先物空売りを積み上げている投機筋が、損失の拡大を抑えるために、先物を買い戻してくることになるからです。

 はたして、そうなるでしょうか? 私は時期尚早と考えます。コロナ感染に伴うリスクを、金融市場が完全に織り込んだとは思えないからです。考えられる、最も楽観的なシナリオと、悲観シナリオを考えると、以下の通りです。

<最も楽観的なシナリオ>

(1)新型コロナ感染を押さえ込む日米欧の経済封鎖が奏効、感染拡大が鈍化する
(2)巨額の金融・財政政策で、企業の連鎖破綻、信用不安の発生を回避する
(3)日米欧で、感染鈍化を見極めつつ経済活動を徐々に再開する
(4)治療薬・ワクチンの早期開発が成功する
(5)治療薬・ワクチンの普及で、経済再開に伴う、二次感染の拡大を防ぐ

<最も悲観的なシナリオ>

(1)新型コロナ感染を押さえ込む日米欧の経済封鎖が奏効、感染拡大が一時的に鈍化する
(2)巨額の金融・財政政策で、企業の連鎖破綻、信用不安の発生を一時的に回避する
(3)日米欧で、感染鈍化を見極めつつ経済活動を徐々に再開する
(4)治療薬・ワクチンの開発に手間取り、なかなか成果が出ない
(5)経済再開が時期尚早で、欧米で、感染の二次爆発が起こる
(6)財政政策で支えきれず、企業の連鎖破綻が起こり、信用不安に発展する

 楽観シナリオと悲観シナリオを分ける重要ポイントは、治療薬・ワクチンの開発時期です。早期に開発成功すれば、楽観シナリオが実現します。いつまでも開発に手間取っていると、悲観シナリオが現実味を帯びます。

 どちらになるか今、予想するのは困難です。今はとりあえず、楽観・悲観シナリオの中間のどこかになる、と考えておくのが妥当と思います。

 今の世界的な株価反発は、やや楽観シナリオに傾き過ぎている感もあります。日経平均もNYダウも、このまま一本調子の上昇が続くとは考えられません。

 治療薬・ワクチンの開発メドが、もっと明らかになるまで、日経平均もNYダウも、まだ急落・急騰を繰り返すと、考えています。

 私は、日本株は、長期的には良い買い場を迎えていると考えています。ただし、短期的には、反落局面に入る可能性を警戒した方が良いと思います。

 以下、治療薬・ワクチンの開発状況について、参考資料です。これは、4月14日のレポート内容の再掲載です。

 

<参考1>治療薬は実現するか?

 さまざまな見通しがあって、どうなるか予想するのは困難です。このレポートでは、とりあえず今わかっていることを取りまとめ、考える材料にしたいと思います。

 治療薬には、大きく分けて2つあります。既存の抗ウイルス薬を活用する方法と、感染して回復したヒトの抗体を使う血清療法です。

【1】    既存の抗ウイルス剤の活用

 新型コロナはウイルスです。ウイルスは、「生物と無生物の間」(生物学者福岡伸一氏の言葉)と呼ばれるように、自ら呼吸し、自ら増殖するわけではありません。人間の細胞の中に入り込んで、増殖していきます。

 したがって、細胞外に存在する生物である「細菌」とは、根本的に異なります。細菌の治癒に有効な抗生物質は、ウイルス性疾患(インフルエンザなど)には、効きません。ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス剤」を使うことが必要です。

 新型コロナの治療に有効な成分を新たに見つけ、安全性を確認した上で薬剤として開発するには、何年も、あるいは何十年もかかってしまいます。急ぎ、治療薬を見つけるには、既に使われている抗ウイルス剤から、新型コロナ治癒に有効なものを探すしかありません。

 幸い、既存の抗ウイルス薬で、新型コロナに有効と考えられるものは多数あります。中でも、有力候補と考えられているのが、富士フィルムHD(4901)のグループ会社、富士フィルム富山化学が開発した抗ウイルス薬「アビガン」や、米ギリアド・サイエンシズの「レムデジビル」です。
ただし、「アビガン」「レムデジビル」など、既存の抗ウイルス剤には、1つ問題があります。軽症者に投与すると回復が早まるが、重症になってから投与しても効果が小さいことです。
それならば軽症者にどんどん投与すれば良いと思われますが、両剤とも、副作用が大きいため、それができません。副作用の大きさを考えると、軽症者でも、投与すべき対象を絞り込む必要があります。

【2】血清療法、ヒト血液から治療薬をつくる方法

 新型コロナに感染し、回復したヒトの血清には、新型コロナに対抗する「抗体」が生成されています。この血清を、重症者に投与すると、治療に効果を発揮することがわかっています。回復したヒトの血清を使う治療が、「血清療法」です。

 ただし、このやり方では、大量の薬剤を生成することは、できません。今のような世界的なパンデミック(大流行)となっている時には、とても間に合いません。

 回復者の血漿を利用して、新型コロナの治療薬を開発する動きもあります。武田薬品工業(4502)と、米ベーリングが共同開発を目指しています。武田薬品は、買収したアイルランドのシャイヤー社が持つ、血液製剤の技術を用います。

 一般に、感染症は、一度かかると、二度はかかりません。感染して回復すると、体内に免疫ができるからです。新型コロナでも、一度かかって回復したヒトには、抗体ができているので、二度はかからないと考えられています(厳密に証明されたわけではありませんが、ほぼ間違いないと考えられます)。

 新型コロナでは、感染者の8割は軽症のまま回復すると考えられています。その回復者の血漿を薬剤開発に生かします。

 医学が未発達だった時代(細菌とウイルスの違いも分かっていなかった時代)、感染症が大流行して、終息するには長い年月がかかりました。回復して免疫を持つ人が、人口の6-7割を占めるまで、感染に歯止めがかかりませんでした。

 たとえば、1918年(第一次世界大戦末期)、世界的に大流行したスペイン風邪(当時は風邪と考えられていた)がそうです。世界中で、何十万という死者を出したが、生き残った人々が免疫を持つことで、やっと終息に向かいました。

<参考2>予防薬(ワクチン)は、実現するか?

 新型コロナは、感染力が強いので、感染者がいるかもしれない地域に出かけることが難しくなります。ただし、予防に有効なワクチンを投与すれば、感染を気にしないで良くなります。たくさんの人に、新型コロナのワクチンを提供できれば、それで社会的な感染の広がりを押さえられ、経済が正常化します。そういうワクチンの開発は可能でしょうか?

 今、世界中で、新型コロナのワクチン開発が一斉に動き出しています。半年~1年以内に、利用可能なワクチンが出てくると考えられます。

 ワクチンの開発には通常、長い時間と巨額の資金がかかります。上市しても、採算がとれるかわかりません。したがって、民間の製薬会社は、ワクチン開発に二の足を踏みます。早くから新型コロナが世界的に流行するリスクに警鐘を鳴らす専門家がいたのにワクチンの開発が進んでいなかったのは、そうした採算面の懸念があったからです。

 今、新型コロナのワクチン開発に、世界各国のバックアップが出ているので、急速に開発が進展する見込みです。通常、何年にも及ぶ臨床試験も、特例として短期間で済ませる可能性が出ています。

 ところで、ワクチンには、いろいろな種類があります。代表的なのは、生ワクチンと、DNAワクチンです。早期に実現しそうなのは、DNAワクチンの方です。

【1】    生ワクチン

 弱毒化したウイルス(ワクチン)を投与し、それを克服させることで、体内に免疫を作らせるのが、生ワクチンです。新型コロナでも生ワクチンの開発が進んでいます。

 ただし、1つ問題があります。安全性が100%担保されているわけでないことです。つまり生ワクチンを投与した人の中の、ごく限られた割合の人に、軽くその病気の症状があらわれることがあります。

 安全性を高めるために、不活性化したウイルスを使ったワクチンもあります。不活性ワクチンならば、安全性は高まりますが、それでも100%安全とは言えません。なお、不活性ワクチンでは、1回の接種では不十分で、免疫を持つために複数回の接種が必要になることがあります。

【2】    DNAワクチン

 ウイルスそのものを使わず、ウイルスのDNA情報だけ使って生成するのが、DNAワクチンです。ウイルスそのものを使わないので、安全性はきわめて高く、生産にかかるコストも低く抑えられます。

 秋ごろまでには、実用化が進むと考えられています。まず、感染のリスクの高い仕事についている人(医療関係者)から投与をはじめ、次いで、感染すると重篤化するリスクを抱える人(高齢者・既往症のある人)から優先して投与する計画が進められています。

 安全面で優れていますが、1つ課題があります。新型コロナに絶対感染しなくなるという保証はないことです。感染しにくくなり、仮に感染しても重篤化しにくくなることはわかっていますが、「一度感染して回復したヒト」が持つ免疫と同等の効果が得られるわけではないと考えられています。