日経平均は、戻り高値を超える

 先週の日経平均株価は、1週間で499円上昇し、1万9,897円となりました。3月の急反発局面で戻りいっぱいとなった「1万9,500円の壁」を超えました。

日経平均日足:2020年1月4日~4月17日

 日米欧で「何でもあり」の大型景気対策が出てきていること、治療薬・ワクチンの開発が進み始めていることが好感されました。

 NYダウ平均株価が反発色を強めていることも、追い風となっています。以下が、米国株の買い材料となっています。

【1】16日、トランプ米大統領が、新型コロナの感染者が少ない地域から経済活動を再開すると発表したこと
【2】米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデジビル」を投与した新型コロナ患者の症状が劇的に改善したと報告されたこと
【3】米バイオテクノロジー「モデルナ」が、米政府の支援を受けてワクチン開発を加速させると発表したこと
【4】米IT大手(GAFAM:グーグル、アマゾン、フェィスブック、アップル、マイクロソフト)など)の成長ポテンシャルが改めて見直されていること

NYダウ日足:2020年1月2日~4月17日

外国人売りが減る中、日本銀行などの買いが上昇牽引

 コロナショックの急落局面(2月25日~3月19日)では、外国人投資家が、大量に日本株を売ったこと分かっています。外国人は、その後の急反発局面でも、まだ日本株に対して買い姿勢には転じていません。

コロナショック下の外国人売買、株式現物および日経平均先物:2020年2月25日~4月10日

出所:東京証券取引所「主体別売買動向(売買差額)2市場1・2部」より作成。マイナスは売り越し、プラスは買い越し

 これだけ大きく日経平均が急反発しているのに、外国人はまだ売り越していました。これは珍しいことです。過去30年、日本株は、外国人が買えば上がり、外国人が売ると下がる「外国人次第」の動きが続いてきたからです。

 3月23日以降の日経平均急反発は、外国人の買いによるものではありませんでした。外国人の売りの勢いが低下する中、日本銀行の買いなどが上昇を牽引しました。

投機筋(主に外国人)は先物売り建てを積み上げたまま

 詳しい説明は省略しますが、東京証券取引所が発表している裁定売買残高の変化に、投機筋の先物ポジションが表れています。4月10日時点で、裁定買い残5,725億円に対し、裁定売り残は2兆165億円と、売り残が買い残を大きく上回っている状態です。投機筋が、日経平均先物の売り建てを積み上げている状態と考えられます。

 簡単に、2008年以降の、裁定売買残高と日経平均の推移を振り返ります。

日経平均と裁定買い残・売り残の推移:2018年1月4日~2020年4月17日(裁定買い残・売り残は2020年4月10日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 上のグラフを見ていただくとわかる通り、裁定買い残高は、2018年初には3.4兆円もありました。この時は、「世界まるごと好景気」と言って良い状況でした。したがって、投機筋は世界景気敏感株である日本株に強気で、日経平均先物の買い建てを大量に保有していたことがわかります。

 ところが、2018年末にかけて、世界景気は急速に悪化しました。投機筋は、日経平均先物を売って、買い建て玉をどんどん減らしていきました。その結果、裁定買い残高は、2018年末には約6,000億円まで低下しました。

 2019年7月以降は、投機筋は先物買い建てを減らすだけでなく、先物売り建てを増やしていたことがわかります。それが、裁定売り残高の急増に表れています。2019年9月には、一時、裁定売り残が2兆円に達しました。

 ところが、2019年10-12月、日経平均は大きく上昇しています。米中貿易戦争が一時休戦となり、世界景気が回復する期待から、世界的に株が上昇した流れに乗りました。この時、裁定売り残高が急減しています。先物の売り建てを積み上げていた外国人投資家が、日経平均急上昇で損失が拡大するのを避けるため、必死に先物を買い戻していたことがわかります。このように、空売り筋の買い戻しを誘う上昇相場を、「踏み上げ」といいます。

 2020年に入ってから、情勢は急変しました。コロナ・ショックで、日経平均が暴落しました。投機筋は、そこで再び、先物の空売りを積み上げたことがわかります。裁定売り残は、再び2兆円まで増えています。3月20日以降、日経平均は急反発していますが、「踏み上げ」はまだ起こっていません。外国人の投機筋は、空売りを積み上げたままです。

踏み上げは起こるか?楽観シナリオと悲観シナリオ

 このまま日経平均の上昇が続けば、いずれ踏み上げ相場が始まることになります。先物空売りを積み上げている投機筋が、損失の拡大を抑えるために、先物を買い戻してくることになるからです。

 はたして、そうなるでしょうか? 私は時期尚早と考えます。コロナ感染に伴うリスクを、金融市場が完全に織り込んだとは思えないからです。考えられる、最も楽観的なシナリオと、悲観シナリオを考えると、以下の通りです。

<最も楽観的なシナリオ>

(1)新型コロナ感染を押さえ込む日米欧の経済封鎖が奏効、感染拡大が鈍化する
(2)巨額の金融・財政政策で、企業の連鎖破綻、信用不安の発生を回避する
(3)日米欧で、感染鈍化を見極めつつ経済活動を徐々に再開する
(4)治療薬・ワクチンの早期開発が成功する
(5)治療薬・ワクチンの普及で、経済再開に伴う、二次感染の拡大を防ぐ

<最も悲観的なシナリオ>

(1)新型コロナ感染を押さえ込む日米欧の経済封鎖が奏効、感染拡大が一時的に鈍化する
(2)巨額の金融・財政政策で、企業の連鎖破綻、信用不安の発生を一時的に回避する
(3)日米欧で、感染鈍化を見極めつつ経済活動を徐々に再開する
(4)治療薬・ワクチンの開発に手間取り、なかなか成果が出ない
(5)経済再開が時期尚早で、欧米で、感染の二次爆発が起こる
(6)財政政策で支えきれず、企業の連鎖破綻が起こり、信用不安に発展する

 楽観シナリオと悲観シナリオを分ける重要ポイントは、治療薬・ワクチンの開発時期です。早期に開発成功すれば、楽観シナリオが実現します。いつまでも開発に手間取っていると、悲観シナリオが現実味を帯びます。

 どちらになるか今、予想するのは困難です。今はとりあえず、楽観・悲観シナリオの中間のどこかになる、と考えておくのが妥当と思います。

 今の世界的な株価反発は、やや楽観シナリオに傾き過ぎている感もあります。日経平均もNYダウも、このまま一本調子の上昇が続くとは考えられません。

 治療薬・ワクチンの開発メドが、もっと明らかになるまで、日経平均もNYダウも、まだ急落・急騰を繰り返すと、考えています。

 私は、日本株は、長期的には良い買い場を迎えていると考えています。ただし、短期的には、反落局面に入る可能性を警戒した方が良いと思います。

 以下、治療薬・ワクチンの開発状況について、参考資料です。これは、4月14日のレポート内容の再掲載です。

 

<参考1>治療薬は実現するか?

 さまざまな見通しがあって、どうなるか予想するのは困難です。このレポートでは、とりあえず今わかっていることを取りまとめ、考える材料にしたいと思います。

 治療薬には、大きく分けて2つあります。既存の抗ウイルス薬を活用する方法と、感染して回復したヒトの抗体を使う血清療法です。

【1】    既存の抗ウイルス剤の活用

 新型コロナはウイルスです。ウイルスは、「生物と無生物の間」(生物学者福岡伸一氏の言葉)と呼ばれるように、自ら呼吸し、自ら増殖するわけではありません。人間の細胞の中に入り込んで、増殖していきます。

 したがって、細胞外に存在する生物である「細菌」とは、根本的に異なります。細菌の治癒に有効な抗生物質は、ウイルス性疾患(インフルエンザなど)には、効きません。ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス剤」を使うことが必要です。

 新型コロナの治療に有効な成分を新たに見つけ、安全性を確認した上で薬剤として開発するには、何年も、あるいは何十年もかかってしまいます。急ぎ、治療薬を見つけるには、既に使われている抗ウイルス剤から、新型コロナ治癒に有効なものを探すしかありません。

 幸い、既存の抗ウイルス薬で、新型コロナに有効と考えられるものは多数あります。中でも、有力候補と考えられているのが、富士フィルムHD(4901)のグループ会社、富士フィルム富山化学が開発した抗ウイルス薬「アビガン」や、米ギリアド・サイエンシズの「レムデジビル」です。
ただし、「アビガン」「レムデジビル」など、既存の抗ウイルス剤には、1つ問題があります。軽症者に投与すると回復が早まるが、重症になってから投与しても効果が小さいことです。
それならば軽症者にどんどん投与すれば良いと思われますが、両剤とも、副作用が大きいため、それができません。副作用の大きさを考えると、軽症者でも、投与すべき対象を絞り込む必要があります。

【2】血清療法、ヒト血液から治療薬をつくる方法

 新型コロナに感染し、回復したヒトの血清には、新型コロナに対抗する「抗体」が生成されています。この血清を、重症者に投与すると、治療に効果を発揮することがわかっています。回復したヒトの血清を使う治療が、「血清療法」です。

 ただし、このやり方では、大量の薬剤を生成することは、できません。今のような世界的なパンデミック(大流行)となっている時には、とても間に合いません。

 回復者の血漿を利用して、新型コロナの治療薬を開発する動きもあります。武田薬品工業(4502)と、米ベーリングが共同開発を目指しています。武田薬品は、買収したアイルランドのシャイヤー社が持つ、血液製剤の技術を用います。

 一般に、感染症は、一度かかると、二度はかかりません。感染して回復すると、体内に免疫ができるからです。新型コロナでも、一度かかって回復したヒトには、抗体ができているので、二度はかからないと考えられています(厳密に証明されたわけではありませんが、ほぼ間違いないと考えられます)。

 新型コロナでは、感染者の8割は軽症のまま回復すると考えられています。その回復者の血漿を薬剤開発に生かします。

 医学が未発達だった時代(細菌とウイルスの違いも分かっていなかった時代)、感染症が大流行して、終息するには長い年月がかかりました。回復して免疫を持つ人が、人口の6-7割を占めるまで、感染に歯止めがかかりませんでした。

 たとえば、1918年(第一次世界大戦末期)、世界的に大流行したスペイン風邪(当時は風邪と考えられていた)がそうです。世界中で、何十万という死者を出したが、生き残った人々が免疫を持つことで、やっと終息に向かいました。

<参考2>予防薬(ワクチン)は、実現するか?

 新型コロナは、感染力が強いので、感染者がいるかもしれない地域に出かけることが難しくなります。ただし、予防に有効なワクチンを投与すれば、感染を気にしないで良くなります。たくさんの人に、新型コロナのワクチンを提供できれば、それで社会的な感染の広がりを押さえられ、経済が正常化します。そういうワクチンの開発は可能でしょうか?

 今、世界中で、新型コロナのワクチン開発が一斉に動き出しています。半年~1年以内に、利用可能なワクチンが出てくると考えられます。

 ワクチンの開発には通常、長い時間と巨額の資金がかかります。上市しても、採算がとれるかわかりません。したがって、民間の製薬会社は、ワクチン開発に二の足を踏みます。早くから新型コロナが世界的に流行するリスクに警鐘を鳴らす専門家がいたのにワクチンの開発が進んでいなかったのは、そうした採算面の懸念があったからです。

 今、新型コロナのワクチン開発に、世界各国のバックアップが出ているので、急速に開発が進展する見込みです。通常、何年にも及ぶ臨床試験も、特例として短期間で済ませる可能性が出ています。

 ところで、ワクチンには、いろいろな種類があります。代表的なのは、生ワクチンと、DNAワクチンです。早期に実現しそうなのは、DNAワクチンの方です。

【1】    生ワクチン

 弱毒化したウイルス(ワクチン)を投与し、それを克服させることで、体内に免疫を作らせるのが、生ワクチンです。新型コロナでも生ワクチンの開発が進んでいます。

 ただし、1つ問題があります。安全性が100%担保されているわけでないことです。つまり生ワクチンを投与した人の中の、ごく限られた割合の人に、軽くその病気の症状があらわれることがあります。

 安全性を高めるために、不活性化したウイルスを使ったワクチンもあります。不活性ワクチンならば、安全性は高まりますが、それでも100%安全とは言えません。なお、不活性ワクチンでは、1回の接種では不十分で、免疫を持つために複数回の接種が必要になることがあります。

【2】    DNAワクチン

 ウイルスそのものを使わず、ウイルスのDNA情報だけ使って生成するのが、DNAワクチンです。ウイルスそのものを使わないので、安全性はきわめて高く、生産にかかるコストも低く抑えられます。

 秋ごろまでには、実用化が進むと考えられています。まず、感染のリスクの高い仕事についている人(医療関係者)から投与をはじめ、次いで、感染すると重篤化するリスクを抱える人(高齢者・既往症のある人)から優先して投与する計画が進められています。

 安全面で優れていますが、1つ課題があります。新型コロナに絶対感染しなくなるという保証はないことです。感染しにくくなり、仮に感染しても重篤化しにくくなることはわかっていますが、「一度感染して回復したヒト」が持つ免疫と同等の効果が得られるわけではないと考えられています。