(2)    流動性確保

 金融機関や企業は、深刻なショックによって経済・金融取引が滞る事態が懸念されるときは、資金繰り対策として現金(流動性)の確保を急ぎます。国際的な経済活動においては、ここでドルの強みが発揮されます。

 2008年のリーマン・ブラザーズ破たんが引き金となった世界金融危機に際して、米国発の問題であるにもかかわらず、彼らは基軸通貨であるドル流動性の確保に奔走(ほんそう)しました。皮肉なことに米国自らが招いた危機がドルの信認をかえって高めることになったわけです。それ以来「有事のドル買い」も一層目立つようになりました。そのドルに対して、有事に円が上昇しがちな背景は次の債権国・債務国間圧力です。

(3)    債権国・債務国間圧力

 ショックによって国際金融が鈍ったり滞ったりする場合に、まず脆弱化しやすいのは、資金繰りに窮する債務国通貨です。債権国通貨は、ショックによって自国経済にダメージがあっても、資金繰りに困りにくい分の優位性があり、下落する債務国通貨に対して上昇しがちです。

 さらに、日頃の投機ポジションが金利水準の高い債務国通貨買いと、相対的に低金利の債権国通貨売りがセットになりやすい分、(1)のリスク削減がその巻き戻しになりがちです。このため、(1)と(3)が相まって、「リスクオフで円高」の反応が強く現れる展開も多くなります。

(4)ファンダメンタルズの変化

 ショックが実体経済に影響を及ぼす程度に応じて、市場は反応します。ファンダメンタルズの変化が現実に市場の需給に反映されるのは数カ月から1~2年という時間軸でしょう。しかし、市場ではショック当初から経済の先行きへの悪影響が取り沙汰され、思惑的な売買が錯綜(さくそう)し、相場は試行錯誤を繰り返しがちです。

 以上、ショックに対する市場反応の4ステップは、必ずしも発生時間順にならない場合があります。例えば、2001年の米国同時多発テロのケースでは、(1)~(3)までが一気にそろって進行する中で、図1の主要通貨の騰落の序列が現れたと観測されました。