「リスクオフで円高」の理由

 有事、金融・経済的ショックでリスクオフ機運が高まると、円相場は上昇しがちです。図1は、2001年9月11日の米国同時多発テロ以降10日間の主要通貨の対ドルでの反応を、それぞれの国の対外債権・債務ポジションと並べて描いています。

図1:2001年米同時多発テロ後の主要通貨の反応

出所:Bloomberg Finance L.P.、IMFより田中泰輔リサーチ作成

 この時は、複数の金融機関が入居する米国の世界貿易センターが崩壊し、金融証券取引が停止された一方、為替市場は閉鎖されずに取引が続きました。

 国際的な金融取引が滞ると、資金繰りに窮する債務国通貨がまず脆弱(ぜいじゃく)化します。米国より対外債務ポジションが大きいオーストラリア、ニュージーランド、カナダの通貨がドルに対して下落したのはそのためです。対外債権ポジションのスイス、日本、そして債権債務がトントンに近いユーロは、対ドルで上昇しました。

 円相場がこうしたショックのたびに上昇し、リスクオフで下落する展開を繰り返すうちに、市場では「リスクオフで円高」という動意が刷り込まれ、条件反射的に反応する面も強まりました。もう一つの代表的なリスクオフ通貨スイス・フランが、ユーロ周辺通貨として、対ドルよりも対ユーロで動く度合いを強めたことで、投機筋がリスクオフ時に「対ドルは円で」という行動を強めた面もあります。

 ところが、2020年早々の米イラン緊張、新型肺炎のショックに際して、円高反応が鈍いことが指摘されます。なぜでしょう。ショックに対する市場の反応を4つのステップに分けると、こうしたケースバイケースの違いを読み解く助けになります。