それでも「部分合意」をキャンセルできない米中双方の事情

 ところで、部分合意はまだ口約束です。年明けに、両国首脳が署名し、発効するのは確実と考えて良いのでしょうか? 万一、キャンセルとなれば、株は暴落することになります。

 ただし今回、部分合意の成立までは問題なく進むと、私は考えています。以下に挙げるとおり、米中双方に今、部分合意を成立させなければならない事情を抱えているからです。

トランプ大統領サイドの事情

 米大統領選が来年11月に迫っており、ここからさらに米中対立をエスカレートさせると、米国株が下がるだけでなく、米景気の悪化も招き、大統領の支持率低下につながるリスクがあります。

「ウクライナ疑惑」をめぐって、米下院で18日、トランプ大統領を弾劾訴追する決議が可決されたことも、大統領に逆風です。弾劾罷免が米上院で成立しないことはほぼ確実ですが、それでも史上三人目の弾劾訴追を受けたこと自体が、大統領選にマイナス材料となります。

 トランプ大統領は、そうした逆風を跳ね返すためにも、貿易交渉の成果を早く有権者にアピールしたいと考えているはずです。合意できない問題はすべて先送りしてでも、目先の中国との合意を演出すると考えられます。

中国側の事情

 米中対立によって、中国の景気減速が鮮明になってきています。何らかの対策をとって景気を回復させないと、共産党政府への不満が広がる可能性もあります。

 米国との対立を緩和し、対中制裁関税の引き下げを実現し、景気を回復させることが、中国政府にとって重要課題となっています。

 香港で民主化デモが過激化していること、米国で「香港人権・民主主義法」が成立したこと、さらに米下院で「ウイグル人権法案」が成立したことも、中国政府にとって頭の痛い問題です。香港問題を抱える今は、米国との対立をいたずらにエスカレートさせない方が良いとの判断が働きます。

部分合意・関税の引き下げは、米中にメリット

 中国は、冷凍豚肉などの輸入関税を引き下げ、米国からの農畜産物の輸入を拡大することを約束する代わりに、米国に対中輸入関税の引き下げを要求しています。

 農産物の輸入拡大は、米国のメリットになるだけでなく、中国のメリットにもなります。中国国内では、米国からの輸入が減った影響で、豚肉など食料品の価格が高騰しています。これを放置すると、中国人民の生活が圧迫され、中国政府への不満につながりかねません。

 米国の要求に応えて農産物の輸入を拡大すると言いつつ、実は、中国にとってもメリットのある話です。同様に、米国が対中関税を引き下げることは、中国に恩を売るだけでなく、米国にもメリットのある話です。

 そういう事情を抱えるだけに、長期的な対立点を先送りしてでも、米中は目先の合意を演出したいと考えているはずです。