NYダウ・日経平均とも高値圏で推移、米中合意成立「織り込み済み」

 NYダウは史上最高値、日経平均は年初来高値圏で、堅調に推移しています。米中通商交渉で「部分合意」が成立、来月半ばまでに、トランプ大統領が署名する見通しとなったことが好感されています。

 合意のメドがたたなければ12月15日に発動される予定だった対中制裁関税第4弾は回避されました。それだけでなく、米国は、これまでにかけてきた対中制裁関税の一部税率引き下げも示唆しています。中国が、米国から大量の農産物を購入することを約束したことへの見返りとしています。

 中国政府は23日、来年1月1日から冷凍豚肉やオレンジジュースなど859品目の輸入関税を引き下げると発表しました。米中合意が近いことを裏付けるアクションです。12月の米中交渉進展は、株式市場にとって予想以上のポジティブ・サプライズ(良い驚き)となりました。

米中の懸案は何も解決されていない

 ただ、これで、良かった良かったと、安堵して良いのでしょうか? 米中には、互いに決して妥協できない対立がたくさん残されています。今回の「部分合意」は、解決できない問題を全部先送りして合意できる狭い範囲に絞って演出した合意に過ぎないとの見方もあります。

 中国が、巨額の補助金を使って世界の成長分野で一気にシェアを取る「国家資本主義」は、米国が是正を強く要求しているところです。ところが、中国政府にとって、ここは一歩も譲れない部分です。中国「国家資本主義」の根幹をなす国策だからです。補助金をめぐる米中対立の構造は、今後、5年10年たっても、変わらないと考えられます。

 そうした問題を先送りして合意を演出しても、いつか、問題が噴出する可能性が残ります。

それでも「部分合意」をキャンセルできない米中双方の事情

 ところで、部分合意はまだ口約束です。年明けに、両国首脳が署名し、発効するのは確実と考えて良いのでしょうか? 万一、キャンセルとなれば、株は暴落することになります。

 ただし今回、部分合意の成立までは問題なく進むと、私は考えています。以下に挙げるとおり、米中双方に今、部分合意を成立させなければならない事情を抱えているからです。

トランプ大統領サイドの事情

 米大統領選が来年11月に迫っており、ここからさらに米中対立をエスカレートさせると、米国株が下がるだけでなく、米景気の悪化も招き、大統領の支持率低下につながるリスクがあります。

「ウクライナ疑惑」をめぐって、米下院で18日、トランプ大統領を弾劾訴追する決議が可決されたことも、大統領に逆風です。弾劾罷免が米上院で成立しないことはほぼ確実ですが、それでも史上三人目の弾劾訴追を受けたこと自体が、大統領選にマイナス材料となります。

 トランプ大統領は、そうした逆風を跳ね返すためにも、貿易交渉の成果を早く有権者にアピールしたいと考えているはずです。合意できない問題はすべて先送りしてでも、目先の中国との合意を演出すると考えられます。

中国側の事情

 米中対立によって、中国の景気減速が鮮明になってきています。何らかの対策をとって景気を回復させないと、共産党政府への不満が広がる可能性もあります。

 米国との対立を緩和し、対中制裁関税の引き下げを実現し、景気を回復させることが、中国政府にとって重要課題となっています。

 香港で民主化デモが過激化していること、米国で「香港人権・民主主義法」が成立したこと、さらに米下院で「ウイグル人権法案」が成立したことも、中国政府にとって頭の痛い問題です。香港問題を抱える今は、米国との対立をいたずらにエスカレートさせない方が良いとの判断が働きます。

部分合意・関税の引き下げは、米中にメリット

 中国は、冷凍豚肉などの輸入関税を引き下げ、米国からの農畜産物の輸入を拡大することを約束する代わりに、米国に対中輸入関税の引き下げを要求しています。

 農産物の輸入拡大は、米国のメリットになるだけでなく、中国のメリットにもなります。中国国内では、米国からの輸入が減った影響で、豚肉など食料品の価格が高騰しています。これを放置すると、中国人民の生活が圧迫され、中国政府への不満につながりかねません。

 米国の要求に応えて農産物の輸入を拡大すると言いつつ、実は、中国にとってもメリットのある話です。同様に、米国が対中関税を引き下げることは、中国に恩を売るだけでなく、米国にもメリットのある話です。

 そういう事情を抱えるだけに、長期的な対立点を先送りしてでも、米中は目先の合意を演出したいと考えているはずです。

1~3月に日経平均の下落はある?

 冒頭の問い、1~3月に日経平均の「ちゃぶ台返し」はあるかについて、私の考えを述べます。10~12月は世界景気が不振のうちに世界株高が進んだので、1月は利益確定売りが出やすい状況になっています。米国株も、季節的に1月は下がることの多いタイミングとなります。

 日本株について言うと、1~3月に発表される10~12月の景気指標、企業業績が不振と予想されることから、日経平均に下押し圧力がかかりやすくなります。10~12月は中国景気の悪化が目立つことに加え、世界自動車販売の不振も、日本企業の業績に悪影響を及ぼします。さらに、10月から消費増税を実施したことによる、消費の一時的落ち込みも加わり、10~12月の景気指標は悪化が予想されます。

 ただし、日経平均の下値は限定的と考えています。4月ころから日本の景気も回復すると予想しているからです。10~12月の数字が悪いことは、いわばバックミラーに映った過去です。発表の都度、株価は一定の反応を示しますが、より重要なのは、先行きの見通しです。先行きに回復を期待させる話が出始めることから、日経平均の下げは限定的になると予想しています。

 結論として、年末までは、高値でしっかりしそうな日経平均ですが、年初の反動安には警戒が必要です。ただし、「ちゃぶ台返し」というほどの大きな下げは想定していません。

 もし、1~3月に日経平均の大きな下げがあるならば、そこは、日本株の良い買い場になると判断しています。

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