顧客の価値評価の数量化
アドバイスへの「報酬」を直接考える前に、顧客の側から見たアドバイスの価値を評価する方法を考えてみよう。上記の(1)から(3)だ。
ポートフォリオの価値は、次の【1】のような効用関数で評価することが一般的だ。
U=r−λσ2−C …【1】
U:効用(単位は運用資産に対する年率リターン)
r:期待リターン(年率%)
λ:リスク拒否度(プラスの定数。リスクに対するマイナス評価を表す)
σ:ポートフォリオのリスク(年率標準偏差、単位は年率%。σ2は分散)
C:コスト(固定的なマイナス・リターンとして測られる。年率%)
さて、投資家がリスク資産を持つ比率をx(0以上1以下の比率を表す数字。0.5なら50%)として、xのリスク資産比率を持つポートフォリオの効用を考えてみよう。
U=xr−λx2σ2–C …【2】
ここで、rはσに比例して拡大するとして、rのσに対する比率をIとする。(Iはインフォメーション・レシオの「I」のイメージだ)
r=Iσ …【3】
【3】を【2】式に代入すると、投資家の効用は、以下のようになる。
U=xIσ−λx2σ2–C …【4】
比率xにあって、この投資家の効用が最大になるとして、【2】式をxについて微分してその値をゼロと置くと、
U’=Iσ−2λσ2x=0 …【5】
【5】をλについて整理して【6】を得る。
λ=Iσ/2σ2x …【6】
ここで、リスク資産の期待リターンが年率5%でリスクは20%とし(大凡株式インデックスの期待リターンとリスクだ。I=0.25である)、無リスク資産のリターンを0%(現在ほぼゼロ金利なのでリアリティは損なわれない)、リスクはもちろんゼロとして、x=0.5、つまりリスク資産を50%持つことが最適だと考える投資家のリスク拒否度は0.0125となる。
λ=(0.25×20)÷(2×400×0.5)=0.0125 …【7】
x=0.5の投資家の効用関数は、
U=xIσ−0.0125x2σ2–C …【8】
と特定できた。
仮に同じ条件で、x=1、つまり100%リスク資産を選ぶ投資家なら、λは0.00625だし、2倍のレバレッジを選ぶならx=2でλは0.003125、リスク資産は25%でいい(x=0.25)という保守的な投資家ならλは0.025だ。
投資家が、運用資産額に対して選ぶリスク資産比率で、投資家のリスクに対する評価を表現することができる。
また、ここで諸条件に対する最適なリスクテイクの大きさxを求めておくと、【6】式をxについて整理して、
x=I/2λσ …【9】
を得る。例えば、前記の条件でx=0.5を選ぶ投資家のポートフォリオの効用は、U=0.5×0.25×20−0.0125×0.52×202=1.25なので、リスクがゼロで1.25%の期待リターンのポートフォリオと等価になる。この場合の期待リターンは2.5%で、リスクは10%だ。
ここでIが0.3に増加したとした場合、x=0.3/(2×0.0125×20)=0.6となり、リスク資産を60%持つ状態が最適点になる。
そして、この場合の効用は、U=0.6×0.3×20−0.0125×0.62×202=1.8となり、リスクゼロで1.8%の運用ができる状態と等価の効用となる。より良い投資機会を得ることで、効用は大いに改善する。
ところで、後者の場合、期待リターンは3.6%でリスクは12%となり、期待リターンベースでは以前の2.5%に対して1.1%の改善を見ているが、効用ベースではその半分の年率0.55%相当の改善にとどまっている。期待リターンの増加分が丸々アドバイスの価値になる訳ではない。
運用アドバイスの「価値」を評価するには、まず顧客が、対象となる資産に対してどのようなリスクに対する評価基準(効用関数のリスク拒否度)を持っているかを推計して、「アドバイス前」のポートフォリオと、「アドバイス後」のポートフォリオの効用(期待リターンではなく)を比較して、その改善幅をアドバイスの価値と見ることが妥当だろう。
効用の改善は、主に期待リターンの増加で得られる場合もあるし、期待リターンは低下してもリスクの減少の効果が大きいことで得られる場合もある。