「裁定買い残」は5,551億円まで低下、「裁定売り残」は1兆2,491億円に増加。投機筋の買いポジションは整理され、売りポジションが積みあがった状態

 私がファンドマネージャー時代に、日経平均先物のトレーディングをする上で、重視していた需給指標に、「裁定買い残」があります。11月1日時点の裁定残高データを見ると、日本株は「売られ過ぎ」と判断できます。

 詳しい説明は割愛しますが、裁定買い残の変化に、外国人による投機的な先物売買の変化が表れます。外国人が先物を買うと、日経平均が上昇し、(裁定取引を通じて)裁定買い残が増加します。外国人が先物を売ると、日経平均が下落し、(裁定解消売りを通じて)裁定買い残が減少します。

 近年の日経平均および裁定買い残は、以下のように推移しています。

日経平均と裁定買い残の推移:2007年1月4日~2019年11月8日(裁定買い残は2019年11月1日まで)

注:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 裁定買い残は、2007年以降でみると、3,000~6,000億円まで減少すると、増加に転じていました。リーマンショック後の安値(2009年)、ブレグジットショック後の安値(2016年)に、裁定残は3,000~6,000億円まで減少してから底を打っています。

 日経平均は、裁定買い残が減少している間(裁定売り残が増加している間)、つまり投機筋(主に外国人)が先物を売っている間は下落します。ところが、裁定買い残が増加に転じる、つまり外国人が先物買いに転じると、上昇に転じます。2007~2019年では、裁定買い残が3,000~6,000億円まで減少したところで、日経平均先物を買えば、タイミングよく日経平均が反発に転じ、利益を得られる可能性が高かったと言えます。

 11月1日時点で、裁定買い残は、再び5,551億円まで低下しています。一方、裁定売り残は、1兆2,491億円まで積みあがっています。差し引きすると、売り残が買い残を7,000億円近くも上回っています。投機筋の先物買いポジションはほとんど整理され、先物売りポジションが積みあがっている状態です。短期的な需給指標として、「売られ過ぎ」を示唆しています。

 ここまで、裁定買い残が減ったということは、外国人の投機筋は、リーマンショック時、ブレグジットショック時と同じくらい、日本株にネガティブと判断していたことになります。ここからさらに悪材料が出ても、追加で大量の先物売りは出にくいと言えます。少しでもファンダメンタルズに改善の兆しが見えれば、外国人の先物買い戻しが出やすいといえます。

  現在、米中対立が緩和する可能性、来年にかけて5G、半導体の投資が盛り上がる可能性などが出て、世界的に株が上昇しています。日経平均先物の空売りポジジョンを保有している投機筋は、損失拡大を避けるために、買い戻しを続ける可能性が高いと考えています。裁定売り残高が、裁定買い残高よりも小さくなるまで、買い戻しの動きが続くと予想しています。
 

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