日経平均株価は心理的節目の2万3,000円をあっさり超える

 先週の日経平均株価は1週間で541円上昇し、2万3,391円となりました。心理的節目と見られていた2万3,000円をあっさり超えました。

 NYダウは、史上最高値を更新。秋から「世界株高」の様相を呈しています。世界的な金利低下が株を押し上げています。この世界株高は、来年の世界景気回復を織り込む最初の動きである可能性が高いと見ています。

日経平均株価 週足:2018年初~2019年11月8日

NYダウ 週足:2018年初~2019年11月8日

「裁定買い」が日経平均を押し上げ

 日経平均の上昇には、需給要因とファンダメンタルズ(景気・企業業績)要因の2つが絡んでいます。

 ファンダメンタルズ面では、来年4月くらいから世界景気回復が見込まれるようになったことが好感されています。経験則では、株は、景気循環を半年~1年先取りして動くので、来年4月から景気回復と考えるならば、今年の秋から世界的に株が上昇しているのは納得がいきます。

 来年、5G(第5世代移動体通信)、半導体の投資が世界的に盛り上がる見込みです。また、米中貿易戦争が一時休戦となれば、中国で人為的に押さえられている設備投資が復活し、世界的な景気回復につながると考えています。

 秋からの日経平均上昇には、需給要因も関与しています。投機筋(主に外国人)の日経平均先物の空売りポジションが高水準に蓄積しており、日経平均の上昇が続く中で、損失確定の買い戻しを迫られている可能性があります。投機筋の日経平均先物買い戻しが、裁定買いを誘い、日経平均上昇につながっています。先週の日経平均上昇は、空売り筋の先物買い戻しが大きく影響したと考えています。

「裁定買い残」は5,551億円まで低下、「裁定売り残」は1兆2,491億円に増加。投機筋の買いポジションは整理され、売りポジションが積みあがった状態

 私がファンドマネージャー時代に、日経平均先物のトレーディングをする上で、重視していた需給指標に、「裁定買い残」があります。11月1日時点の裁定残高データを見ると、日本株は「売られ過ぎ」と判断できます。

 詳しい説明は割愛しますが、裁定買い残の変化に、外国人による投機的な先物売買の変化が表れます。外国人が先物を買うと、日経平均が上昇し、(裁定取引を通じて)裁定買い残が増加します。外国人が先物を売ると、日経平均が下落し、(裁定解消売りを通じて)裁定買い残が減少します。

 近年の日経平均および裁定買い残は、以下のように推移しています。

日経平均と裁定買い残の推移:2007年1月4日~2019年11月8日(裁定買い残は2019年11月1日まで)

注:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 裁定買い残は、2007年以降でみると、3,000~6,000億円まで減少すると、増加に転じていました。リーマンショック後の安値(2009年)、ブレグジットショック後の安値(2016年)に、裁定残は3,000~6,000億円まで減少してから底を打っています。

 日経平均は、裁定買い残が減少している間(裁定売り残が増加している間)、つまり投機筋(主に外国人)が先物を売っている間は下落します。ところが、裁定買い残が増加に転じる、つまり外国人が先物買いに転じると、上昇に転じます。2007~2019年では、裁定買い残が3,000~6,000億円まで減少したところで、日経平均先物を買えば、タイミングよく日経平均が反発に転じ、利益を得られる可能性が高かったと言えます。

 11月1日時点で、裁定買い残は、再び5,551億円まで低下しています。一方、裁定売り残は、1兆2,491億円まで積みあがっています。差し引きすると、売り残が買い残を7,000億円近くも上回っています。投機筋の先物買いポジションはほとんど整理され、先物売りポジションが積みあがっている状態です。短期的な需給指標として、「売られ過ぎ」を示唆しています。

 ここまで、裁定買い残が減ったということは、外国人の投機筋は、リーマンショック時、ブレグジットショック時と同じくらい、日本株にネガティブと判断していたことになります。ここからさらに悪材料が出ても、追加で大量の先物売りは出にくいと言えます。少しでもファンダメンタルズに改善の兆しが見えれば、外国人の先物買い戻しが出やすいといえます。

  現在、米中対立が緩和する可能性、来年にかけて5G、半導体の投資が盛り上がる可能性などが出て、世界的に株が上昇しています。日経平均先物の空売りポジジョンを保有している投機筋は、損失拡大を避けるために、買い戻しを続ける可能性が高いと考えています。裁定売り残高が、裁定買い残高よりも小さくなるまで、買い戻しの動きが続くと予想しています。
 

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