全体として、排ガス浄化装置向け消費は持ち直しが期待されるが、宝飾向けが伸びない

 前々回の「金とプラチナ、価格差が30年間で最大のマイナス幅に!この差をどう読む?」で述べましたが、VW問題発覚がディーゼル車への信用を低下させ、その信用低下がディーゼル車の自動車排ガス浄化装置向けのプラチナ消費を減少させ、自動車排ガス浄化装置向け消費が主要な消費内訳であるプラチナの消費量が減少し、プラチナ価格が下落する、という“連想”が、プラチナを買うあるいは投資をする動きを弱めた、と筆者は考えています。

 ここで言う“連想”とは、ムード、思惑、思い込み、失望などの目に見えない、市場を覆ったり、漂ったり、底流したりするもの一つで、この場合、VW問題がプラチナの消費を減らし、価格を下落させる、という“悲観論”と言えます。

 また、目に見えない悲観論以外に、実際にデータで把握できる価格低迷の要因が先週公表されたWPICのデータと過去に公表された同様のレポートで確認できます。

 以下の図は、排ガス浄化装置向け、宝飾向け、その他の消費の、プラチナ消費量全体に占めるシェアを示したものです。

図:プラチナ消費全体に占める排ガス浄化装置向け、宝飾向け、その他のシェア

出所:WPICのデータをもとに筆者作成

 この図のとおり、近年は、プラチナ消費全体の40%強が排ガス浄化装置向け、30%強が宝飾向けです。このプラチナの2大消費と言える、排ガス浄化装置向けと宝飾向けに注目します。

 以下の図は、VW問題が発覚した2015年から2018年までの各年の、排ガス浄化装置向け消費と宝飾向け消費について、WPICが公表した、“見通し(初回実績値公表1年前)”、“初回実績値”、“最新の実績値”の3つの値を結んだものです。

図:排ガス浄化装置向け消費と宝飾向け消費の見通し・初回実績値・最新の実績値の推移

単位:千トロイオンス
出所:WPICのデータをもとに筆者作成

 見通し(実績値公表1年前)と初回実績値を比べた時、見通しよりも初回実績値が小さければ、1年前に想定された消費量は実態よりも過大だった(何らかの要因で実態が見通しよりも小さくなった)と言えます。

 また、最新の実績値が初回実績値よりも小さければ、初回実績値が公表された後、後付的に下方修正された(実際には初回公表時ほど消費量は多くなかった)と言えます。

 ここで注目したいのは、見通しよりも、初回実績値よりも、最新の実績値が小さいケース、つまり、見通し→初回実績値→最新の実績値と公表された過程の中で、消費が下方修正され続けているケースです。

 VW問題に揺れている排ガス浄化装置向け消費は、実際のところ、2016年と2018年は初回実績値よりも最新の実績値の方が多くなっています。消費が上方修正されていることがわかります。

 一方、宝飾向け消費ですが、こちらは2015年から2018年までの4カ年分、2017年の初回実績値と最新の実績値が同じだったことを除けば(とはいえ上方修正ではない)、軒並み下方修正されていることがわかります。

 見通しが立てられた時点よりも、初回実績値公表時点よりも、最新の実績値が、ほぼどの年も、小さくなっていることは、プラチナの宝飾向け消費にとって、この数年間、当該消費が増加する環境とは言いにくかったと考えられます。プラチナの消費動向にはVW問題に目が行きがちですが、宝飾向けの環境の悪さを認識しなければならないと言えます。