前回の財政検証を踏まえて

 平成26年に公表された「財政検証」の結果をもとに、「年金財政」についてもう少し詳しく見ていきましょう。

「財政」とは平たく言うと、支出と収入のバランスをとることです。その前提として、おおむね100年程度を見越して給付額と保険料そして過去の積立金とで「収支」が均衡するように計算されています。よく「年金100年安心」と言われるのは、これが所以です。誤解が生じやすいのは、個々の給付水準を100年保証するということでありません。これは制度の安定性を伝えるためのスローガンです。

 さて、将来の「年金財政」の予測は、長期にわたる人口動態や経済情勢などの推計値をベースに仮説を立てます。そこから将来にわたる給付額と保険料を試算し、収支を均衡させます。

 その根幹を担うのが、「財政検証」です。5年ごとに出生率や平均寿命、賃金、物価、金利などの推計値を見直し、収支予測を再計算します。それによって将来にわたって「年金財政」を安定させるのです。

 また、「年金財政」を考えるうえで、大切なポイントは世代間で不公平が起こらないように配慮することです。例えば、高齢世帯に手厚い年金を給付すると、その分、現役世代の保険料負担が重くなります。逆に、保険料の負担を軽くし過ぎると、高齢者が生活に困窮したり、将来的に年金制度の安定性が欠けたりすることにも繋がります。

 そこで、「財政検証」では、その年に年金を受給開始する受給者に対して、公的年金の収入が現役時代の収入の何パーセントぐらいになるかの参考値を示しています。この指標を「所得代替率」と言います。

 前回の財政検証で示された率は、平成26年度において62.7%となっています。モデルケースとして、会社員の夫と専業主婦の妻の世帯で、おおむね月21.8万円という数字が示されています。ここで注意したいのは、この数字は年金財政の計算根拠としてのモデルケースであり、個々の年金額は、現役時代に納めた保険料や家族構成によって異なるという点です。例えば、厚生年金の場合、現役時に納めた保険料が多いほど年金額が増える仕組みになっています。とはいえ、おおむね「6割」という数字は目安にできそうです。