“サウジの孤軍奮闘と2つの産油国の苦悩”は、引き続き原油相場の上昇要因

 海外主要メディアのデータによれば、サウジの7月の原油生産量は日量およそ965万バレルでした。この水準は、2017年1月の協調減産開始以降の最も少ない量でした。

 減産は自らの収益の柱である原油の生産・輸出を自ら減少させる、いわば身を切る行為、という面があり、その意味では、2019年7月、サウジは協調減産開始以降、最も身を切ったと言えます。

 原油の減産は原油価格を上昇させる要因になると言われます。しかし、減産を実施しているとは言え、現在は米中貿易戦争の激化という非常に重い下落要因があることもあり、サウジをはじめとしたOPECプラスが目論むような原油価格の目立った上昇は、今のところ見られません。

 産油国にとっての大きな恩恵と言える原油価格の明確な上昇がない中での減産は、単なる身を切る行為になりかねません。そのような中、なぜ、サウジは孤軍奮闘するのでしょうか?

 サウジは現在、軍事費が肥大化する中、国内の施策にかかる資金をねん出しなければならない状態にあります。現在のサウジにとって、国内の施策は国の体勢を維持するために非常に重要です。この資金をねん出するために必要な事が、原油相場の上昇です。

 また、将来、IPO(新規公開株)実施を実現させるため、サウジアラムコの企業価値を高めなければなりません。同社の資産であるサウジが保有する原油の価値は原油価格によって決まります。原油価格を上昇させ、同社の価値を高めてIPOを実現することは、同国の将来を左右するために必要不可欠な事として重要視されています。

 同時に、サウジはOPECのリーダーとして減産を率先して行うことが求められ、そしてリーダーであるが故、減産するべきであるにも関わらず減産をしない国の肩代わりをしなければならない立場にあります。

 また、減産が行われているという体を維持し、OPECプラスという減産の枠組みを崩壊させない使命が課せられているため、率先して減産を実施している面もあると考えられます。

 つまり、サウジは国内外、双方の理由から、減産を実施しなければならない状況にあると言えます。米国の生産シェアが年々高まっていますが、増産をしてシェアを奪還することよりも、上記の理由を優先し、減産に励んでいると考えられます。

 サウジがこのような状況にある一方、なぜ、サウジを除いた減産参加国10カ国は十分な減産をしないのでしょうか?

 現在の協調減産は2017年1月に始まり、今年の6月で2年半が経過しました。この減産は7月初頭に行われたOPEC総会で決定したとおり、2020年3月まで続きます。

 先述の通り、減産は自らの収益の柱である原油の生産・輸出を自ら減少させる、身を切る行為という面があり、2年半、身を切り続けましたが、さらに2020年3月までこの状況を続けなければなりません。

 これ以上の減産期間の延長がないと仮定すれば、協調減産は都合、3年3カ月におよぶことになります。減産参加国たちは、これまでの2年半を超える減産実施に疲れ、足元、十分な減産を実施することを放棄し始めていると考えられます。

 今後、すでに一部の国で見られていますが、“増産”が目立つ可能性があります。この点は、OPEC内の足並みの乱れ→OPECに対する市場の信用不安発生、および原油生産量の増加につながり、原油価格の下落要因に発展する可能性があります。

 とは言え、米国の制裁に端を発したイランとベネズエラという減産免除国2カ国の生産量の減少は “OPECの減産が上手くいっている”という“誤解”を生じさせるほど、勢いを伴っています。

 ここで言う“誤解”とは、減産参加国10カ国(サウジを除いた減産参加国)の消極的な姿勢を、減産順守に無関係で米国の制裁によって生産量が減少している減産免除国が支え、OPECが減産を上手くやっているように見えることを指しています。

 仮に今後、サウジ以外の減産参加国の生産量が増加しても、減産免除国がそれをカバーし、サウジも現状のような低水準の生産量を維持すれば、全体として原油生産量は大きく増加しない可能性もあります。

 この場合、減産順守は難しくなる可能性がありますが、市場が(減産免除国を含んだ)OPEC全体の原油生産量が減少していれば問題ない、と判断すれば原油価格は上昇する可能性があると筆者は考えています。

 今後も、OPECの原油生産量を、減産参加国と減産免除国に分けた上で、それぞれ増減の意味を考えながら注目していきたいと思います。