先週、減産延長決定後、初月となった7月のOPEC(石油輸出国機構)の原油生産量のデータが海外主要メディアによって公表されました。見出しは「2019年7月のOPECの原油生産量は前月に比べて減少した」という趣旨のものです。

 この見出しから、どのような印象を受けるでしょうか?“延長された減産は初月から上手くいっている”と感じた人も中にはいると思います。

 もともと、原油生産量のデータは経済統計と異なり、大差はないものの公表する機関によって若干異なります。調査方法が同一ではないことがその原因だと考えられます。

 前月までの各国の原油生産量のデータは通常、複数の海外主要メディアが月初に、2週目の火曜日以降にEIA(米エネルギー省)、OPEC(石油輸出国機構)、IEA(国際エネルギー機関)などが公表します(8月の公表スケジュールは、8月6日にEIA、9日にIEA、16日にOPEC)。

「2019年7月のOPECの原油生産量は前月に比べて減少した」とした海外主要メディアが報じたデータが7月の各国の原油生産の状況を示す全ての手がかりではありませんが、大方の目安になります。

 その大方の目安となるデータに、現在のOPECの現状を端的に示す、かつ今後の原油相場の動向を考える上で重要で興味深いデータがあったため、本稿でレポートします。

減産の動向を確認するならば、OPECプラス24カ国を分類しなければならない

「2019年7月のOPECの原油生産量は前月に比べて減少した」という趣旨の見出しは、確かに当該データが示す事実を伝えています。海外メディアが報じたそのデータは、7月のOPECの原油生産量は6月に比べて日量28万バレル減少したことを示しているからです。

図1:OPEC全体の原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:海外主要メディアのデータをもとに筆者作成

 ただ、この日量28万バレル減少が、必ずしも減産の進捗を示すものではないことに留意が必要です。上記の見出しだけで、減産延長後の初月となった2019年7月、OPEC加盟国の減産に参加する国の原油生産量が減産合意の基準を下回った、と解釈することはできないのです。

 “減産順守率”というOPEC等が公表している減産の進捗状況を示すデータがあります。100%を超えると減産が守られていることを示すこのデータの計算根拠に、減産に参加していない国は含まれていません。つまり、減産が上手くいっているかどうかの判断に、減産に参加していない国(減産免除国)は無関係なのです。

 減産が上手くいっているかどうかを判断するには、どの国が減産をしたのか? ということが非常に重要です。減産に参加していない国の生産量が減少しても、減産が上手くいっていることにはならないからです。

 減産の進捗を確認するために注目しなければならないのは、“減産参加国”の動向なのです。

「2019年7月のOPECの原油生産量は前月に比べて減少した」という見出しで、減産が上手くいっている、という誤解をしないため、正確にOPECプラス(石油輸出国機構=OPECと、非加盟国で構成される組織)である24カ国を分類することが必要です。

図2:OPECプラスの全体像(2019年8月時点)

出所:各種資料より筆者作成

孤軍奮闘するリーダー「サウジ」の原油生産量は協調減産開始後の最低まで減少中

 以下の図は、先ほどのOPECプラスの全体像の図に、減産のルールが変わった2019年1月から7月までの、OPECの原油生産量の傾向を追記したものです。

図3:OPECの原油生産量の傾向(2019年1~7月まで)

出所:各種資料をもとに筆者作成

 OPECの原油生産量は7月、前月比で“減少”したわけですが、その日量28万バレルの減少を含んだ、上図から分かる2019年1~7月までの動向をまとめると以下のようになります。

  • 減産参加国のサウジは減産に積極的。減少傾向が続いている。
  • サウジ以外の減産参加国は減産に消極的。生産量は横ばい。
  • 減産免除国のイランとベネズエラの原油生産量は減産と関係なく減少中。
  • 減産免除国のリビアの原油生産量は回復中。

 これらの動向をグラフにすると、以下のようになります。

図4:減産参加国・減産免除国別のOPECの原油生産動向(2019年1月と7月を比較)

目盛の単位:百万バレル
出所:海外主要メディアのデータをもとに筆者作成

 削減量のルールが変わった2019年1月と先月7月を比べると、OPEC全体では日量156万バレル、生産量が減少しています。156万バレルの内訳は、減産参加国が48.1%にあたる75万バレル減、減産免除国が51.9%にあたる81万バレル減です。

 つまり、1~7月までの減少分の半分以上は、減産評価の対象外である“減産免除国”によるものです。減産実施国の減産実施よりも、減産免除国の生産減少の方が大きく貢献しているわけです。

 また、減産参加国の中でもサウジは60万バレルもの減産をしていますが、この量はOPEC14カ国全体の38.4%、減産参加国11カ国全体の79.8%です。ここに、サウジの孤軍奮闘ぶりがうかがえます。OPECプラス24カ国のうち、OPEC側のリーダーとして、サウジは孤軍奮闘し、減産を行っているわけです。

図5:サウジの原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:海外主要メディアのデータをもとに筆者作成

 また、以下は減産参加国11カ国のうち、サウジを除いた10カ国の原油生産量の推移です。

図6:サウジを除く減産参加国(合計10カ国)の原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:海外主要メディアのデータをもとに筆者作成

 サウジを除いた10カ国の減産参加国は15万バレルの減産をしています。この量はOPEC14カ国全体の9.7%、減産参加国11カ国全体の20.2%です。次回以降本欄で詳細を書きますが、サウジ以外の減産参加国の一部では増産をしている国があります。

 本来減産をしなくてはならない国が増産を行っているため、サウジが孤軍奮闘せざるを得ない状況になっていると言えます。

「イラン」「ベネズエラ」の原油生産量は、米国の制裁による“生産減少”

 先述のとおり、減産免除国3つあります。「イラン」「ベネズエラ」「リビア」です。

 OPEC加盟国である「イラン」「ベネズエラ」「リビア」は減産免除国です。特に「イラン」と「ベネズエラ」は、米国の制裁の対象となり、制裁がこれらの国の原油生産量を大きく減少させる要因になっています。

 イランは、米国が同盟国にイラン産原油の不買を呼びかけた(イラン産原油の購入を制裁対象とした)ことにより、イランの原油生産量が大きく減少しています。

 また、ベネズエラも米国の制裁で、ベネズエラ産原油の商用化の際に希釈剤として用いてきた米国産の石油製品が入手できなくなるなど、ベネズエラ国営石油会社の運営がままならない状況に陥り、原油生産量の減少に歯止めがかかっていません。

 リビアは、アラブの春の際、政情不安で原油生産量が一時的に急減したものの、近年は徐々に回復傾向にあります。

 以下は減産免除国3カ国、それぞれの原油生産量の推移です。

図7:減産免除国3カ国それぞれの原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:海外主要メディアのデータをもとに筆者作成

 以下は減産免除国3カ国の原油生産量の合計です。

図8:減産免除国の原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:海外主要メディアのデータをもとに筆者作成

 先述のとおり、減産免除国3カ国の2019年7月の原油生産量は、1月に比べて日量81万バレル減少しました。ただ、この81万バレルの減少は、2017年半ばから始まっていた減少傾向の延長線上にあり、2019年1月からの現在のルールの減産開始とは、大きな関わりはないとみられます。

 また、リビアを除くイランとベネズエラの2カ国の生産量の合計は、2016年半ば頃から減少し続けています。つまり、この2カ国の原油生産量は、現在のルールの減産にも2017年1月から始まった協調減産にも、いずれにも大きな関わりがなく減少し続けていると言えます。

 減産免除国の原油生産量はいくら減少しても、減産順守率を上昇させることはありません。減産免除国の原油生産量の減少は、OPEC全体の原油生産量を減少させる要因にはなったとしても、減産順守と関わりがないことを認識することが必要です。

 特に現在のように、減産参加国の中でサウジ1国のみが減産に貢献し、他の減産参加国が減産に消極的な状況において、減産免除国の生産減少(意図して生産量が減少している訳ではないので“減産”とは言わない)が、減産順守に貢献しているように見えてしまう状況においては、OPEC全体における原油産量を、減産参加国によるもの、減産免除国によるもの、とに明確に分けて認識することが、正しく減産を評価するために必要不可欠です。

“サウジの孤軍奮闘と2つの産油国の苦悩”は、引き続き原油相場の上昇要因

 海外主要メディアのデータによれば、サウジの7月の原油生産量は日量およそ965万バレルでした。この水準は、2017年1月の協調減産開始以降の最も少ない量でした。

 減産は自らの収益の柱である原油の生産・輸出を自ら減少させる、いわば身を切る行為、という面があり、その意味では、2019年7月、サウジは協調減産開始以降、最も身を切ったと言えます。

 原油の減産は原油価格を上昇させる要因になると言われます。しかし、減産を実施しているとは言え、現在は米中貿易戦争の激化という非常に重い下落要因があることもあり、サウジをはじめとしたOPECプラスが目論むような原油価格の目立った上昇は、今のところ見られません。

 産油国にとっての大きな恩恵と言える原油価格の明確な上昇がない中での減産は、単なる身を切る行為になりかねません。そのような中、なぜ、サウジは孤軍奮闘するのでしょうか?

 サウジは現在、軍事費が肥大化する中、国内の施策にかかる資金をねん出しなければならない状態にあります。現在のサウジにとって、国内の施策は国の体勢を維持するために非常に重要です。この資金をねん出するために必要な事が、原油相場の上昇です。

 また、将来、IPO(新規公開株)実施を実現させるため、サウジアラムコの企業価値を高めなければなりません。同社の資産であるサウジが保有する原油の価値は原油価格によって決まります。原油価格を上昇させ、同社の価値を高めてIPOを実現することは、同国の将来を左右するために必要不可欠な事として重要視されています。

 同時に、サウジはOPECのリーダーとして減産を率先して行うことが求められ、そしてリーダーであるが故、減産するべきであるにも関わらず減産をしない国の肩代わりをしなければならない立場にあります。

 また、減産が行われているという体を維持し、OPECプラスという減産の枠組みを崩壊させない使命が課せられているため、率先して減産を実施している面もあると考えられます。

 つまり、サウジは国内外、双方の理由から、減産を実施しなければならない状況にあると言えます。米国の生産シェアが年々高まっていますが、増産をしてシェアを奪還することよりも、上記の理由を優先し、減産に励んでいると考えられます。

 サウジがこのような状況にある一方、なぜ、サウジを除いた減産参加国10カ国は十分な減産をしないのでしょうか?

 現在の協調減産は2017年1月に始まり、今年の6月で2年半が経過しました。この減産は7月初頭に行われたOPEC総会で決定したとおり、2020年3月まで続きます。

 先述の通り、減産は自らの収益の柱である原油の生産・輸出を自ら減少させる、身を切る行為という面があり、2年半、身を切り続けましたが、さらに2020年3月までこの状況を続けなければなりません。

 これ以上の減産期間の延長がないと仮定すれば、協調減産は都合、3年3カ月におよぶことになります。減産参加国たちは、これまでの2年半を超える減産実施に疲れ、足元、十分な減産を実施することを放棄し始めていると考えられます。

 今後、すでに一部の国で見られていますが、“増産”が目立つ可能性があります。この点は、OPEC内の足並みの乱れ→OPECに対する市場の信用不安発生、および原油生産量の増加につながり、原油価格の下落要因に発展する可能性があります。

 とは言え、米国の制裁に端を発したイランとベネズエラという減産免除国2カ国の生産量の減少は “OPECの減産が上手くいっている”という“誤解”を生じさせるほど、勢いを伴っています。

 ここで言う“誤解”とは、減産参加国10カ国(サウジを除いた減産参加国)の消極的な姿勢を、減産順守に無関係で米国の制裁によって生産量が減少している減産免除国が支え、OPECが減産を上手くやっているように見えることを指しています。

 仮に今後、サウジ以外の減産参加国の生産量が増加しても、減産免除国がそれをカバーし、サウジも現状のような低水準の生産量を維持すれば、全体として原油生産量は大きく増加しない可能性もあります。

 この場合、減産順守は難しくなる可能性がありますが、市場が(減産免除国を含んだ)OPEC全体の原油生産量が減少していれば問題ない、と判断すれば原油価格は上昇する可能性があると筆者は考えています。

 今後も、OPECの原油生産量を、減産参加国と減産免除国に分けた上で、それぞれ増減の意味を考えながら注目していきたいと思います。