2.メモリ市況:DRAMスポット市況が上昇に転じた

 メモリ市況を見ると、NAND、DRAMともに大口価格は下落が続いています(グラフ4、5)。ただし、DRAMのスポット価格(小口価格)が7月8日の週を底として上昇に転じています(グラフ6)。

 日経新聞市況欄によれば、DRAMの4ギガビットDDR4の安値では7月9日の1.73ドルから7月24日の2.13ドルまで23%上昇し、高値では7月11日の1.82ドルから7月24日の2.20ドルまで21%上昇しました。市場では、DRAMを買い占めている業者がいる、サムスン、SKハイニックスが顧客にDRAM、NANDの値上げを持ちかけ始めたなどの観測が出ています。

 この背景には、7月1日付けで日本政府が発表した、韓国向け輸出の審査厳格化があります。まず、これまでほぼ自由に韓国に輸出できたフッ化水素、レジスト(EUV用)、フッ化ポリイミドの3品目について、個別契約ごとに90日間の輸出審査が必要になりました。

 このため、7月4日から(実際には7月2日から)これら3品目の対韓国輸出が停止しています。日本政府の説明では安全保障上の理由からです。禁輸が決まったわけではありませんが、韓国側が求める数量が輸出できるかどうかは、審査次第です(楽天証券投資WEEKLY2019年7月5日号「特集:米中貿易摩擦、日韓摩擦と電子部品、半導体製造装置セクター」を参照)。

 また8月中にも、韓国がこれまでのホワイト国指定(武器に転用できる、あるいは開発できる物の輸出管理を徹底している国(ホワイト国)への輸出については、包括許可によって一度輸出許可が下りると3年間有効になる)から外されることとなり、上記3品目以外でも個別契約ごとに輸出審査が必要になりました。

 このことが韓国の半導体メーカーに与える影響には大きなものがあります。特に高純度フッ化水素はエッチング工程のエッチングガスや洗浄に大量に使われるものであり、日本メーカーが90%以上のシェアを持つ高純度品の調達が困難になれば、最先端半導体の生産が滞る可能性があります。

 代替品の調達や開発には相当な時間が必要になると思われます。更に、今後の日本政府の措置によって輸出審査厳格化が半導体製造装置に拡大した場合には、韓国の半導体生産全体が停滞する可能性が一層高くなると思われます。

 全くの私見ですが、今回の日本政府の措置によって、韓国は半導体のような先端工業製品の生産に向かない国になってしまった可能性があります。

 足元では、NAND、DRAMともに在庫がたまっているため、メモリの需要家がすぐに調達に困ることはないと思われます。ただし、今後メモリ需要が増えたとき、韓国メーカーがそれに応えることができるかどうか不透明になっています。ちなみに、今年7月以降はパソコン用CPUの供給が増え、スマートフォン(新型iPhoneなど)の生産も増えるため、DRAM需要が増えると予想されます。また、2020年になって5Gが本格化すれば、データセンター投資が再開され、NAND需要が増える可能性があります。

 このため、サムスン、SKハイニックスと競合する東芝メモリ(NAND)、マイクロン(DRAM、NAND)、インテル(NAND)が増産する余地が出てくると思われます。また、韓国メーカーが中国工場を増強する可能性もあると思われます。

 メモリ増産とそのために必要な設備投資には一定の時間がかかるため、サムスン、SKハイニックスの代替が可能なメーカーがマイクロンしかないDRAMは、スポット価格が上昇しやすい状態にあると言えます(表6)。そのため、今のDRAMスポット価格上昇が続けば、いずれ大口価格の底打ち、上昇に結び付くと思われます。

 またNANDは、東芝メモリ=ウェスタン・デジタル連合とマイクロンの生産能力が大きいため(表5)、サムスン、SKハイニックスの生産が滞ったとしても急な市況上昇は期待しにくいですが、6月中旬から約1カ月間、東芝メモリ四日市工場の大部分の生産ラインが停電のために停止したため、大幅減産と同じ効果が出ています。そのため、NANDも今後大口価格が緩やかに上昇に転じる可能性があります。

グラフ4 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)

単位:ドル、国内大口需要家渡し、TLC(注:2017年5月30日付で従来の多値品がTLCに変更された)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ5 DRAMの市況

単位:ドル、国内大口需要家渡し、4ギガビット(2018年6月26日までDDR3、それ以降はDDR4)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ6 DRAMのスポット市況

単位:ドル、小口渡し、現金
出所:日本経済新聞主要相場欄より楽天証券作成
注:2018年6月29日までは4ギガビットDDR3型、それ以降は同DDR4型

表5 NAND型フラッシュメモリの売上高と市場シェア

単位:100万ドル
出所:TRENDFORCEプレスリリースより楽天証券作成
注1:2017年2Qの伸び率に合わせて2017年1Qの東芝と合計を修正した。
注2:2017年4Qよりメーカー名に「その他」が表記されたことに伴い、2017年3Qの「その他」「合計」を4Q伸び率より計算して表記した。
注3:四捨五入の関係で合計が合わない場合がある。

表6 DRAMの売上高と市場シェア

単位:100万ドル
出所:TRENDFORCEプレスリリースより楽天証券作成
注:四捨五入の関係で合計、比率が合わない場合がある。

3.半導体設備投資は、早ければ今下期、遅くとも来上期に増加に転じる可能性がある

 アドバンテストの受注動向を見ると、ロジック半導体(パソコン、スマホのCPU、5Gチップセットなど)の設備投資は、後工程だけでなく、前工程も増加していると思われます。例えば、今年既に投資が実施されたTSMCの5ナノ半導体パイロットプラントと、それに続く本プラントの建設は大きなインパクトになっていると思われます。

 メモリ設備投資は、アドバンテストのメモリ・テスタ受注動向を見る限り、まだ動いていません。ただし、前述のような韓国メーカーの半導体生産問題(メモリ生産問題)とDRAMスポット価格の上昇を考え合わせると、早ければ今下期中、遅くとも来上期中にはメモリ設備投資が動き出す可能性があります。韓国メーカーの韓国内の設備投資にはもはや期待できませんが、サムスン、SKハイニックスの中国工場での設備投資、東芝メモリ、マイクロン、インテルのメモリ投資には期待できると思われます。

 要するに、日本の対韓国輸出審査の厳格化は、韓国の半導体生産能力を、日本、アメリカ、台湾、中国に移転させる効果がある可能性があるのです。そして、その過程で新たな投資が生れる可能性があるのです。

 このように見ていくと、半導体関連株の中でも半導体製造装置株には引き続き投資妙味を感じます。アドバンテスト(決算発表は7月24日、以下同様)、東京エレクトロン(7月26日)、ディスコ(7月25日)、SCREENホールディングス(7月29日)、レーザーテック(8月7日)に注目したいと思います。

表7 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)

単位:日本製は百万円、北米製は百万ドル、%
出所:日本半導体製造装置協会、SEMIより楽天証券作成

表8 サムスン電子:半導体部門の業績と設備投資

単位:兆ウォン
出所:会社資料、報道より楽天証券作成
注:1ウォン=0.1円