考えよう、12のトピック 10~12

 

10 資本の価格の基本原理

 将来得られる価値の、割引現在価値の合計としての資産価格の計算式を示し、「インフレ率」、「リスクプレミアム」、「成長率」など、資産価格の関係を理解して説明できることがFPとして重要だろう。

 加えて、資本を提供する「投資のリスク」と、市場参加者がゼロサムゲーム的にお互いの見通しの違いに賭ける「投機のリスク」の経済的な性質の違いを理解しておきたい。

 併せて、外国為替市場のリスクが後者であって、外国債券・外貨預金が見かけ上高金利であっても、円ベースの期待リターンが高くないことの理解が重要だ。

▼問題 

リスクフリー金利が1%、リスクプレミアムが5%の時、今後の成長率(永続的で一定とする)が+2%のA銘柄、0%のB銘柄、−2%のC銘柄の株価が理論価格通りであるとした場合のPER(株価収益率)をそれぞれ計算せよ。その場合に、あなたならどの銘柄に、どのようなウェイトで投資するか?

▲ヒントと補足 

高成長な銘柄が高成長なりに、低成長な銘柄が低成長なりに評価された場合に何が起こるか。  次の問題は、「将来の成長率が予想よりも上振れするか、下振れするか」ということになるのだが、そうした状況ではどうするのが最善か。  外貨の期待リターンが一見高く見えることは、外債を使った投資信託や、外貨建ての貯蓄性保険などで、顧客を錯覚させるために使われているので、この点に関する正確な理解と説明ができることはFPにとって重要だ。

 

11 金融循環と資産運用


 アドバイスを求める顧客にとっては、現在の金融市場の状況を知りたいという希望があるし、こうした理解が資産運用に役立つ場合もある。本コラムの読者には「山崎式経済時計」を使った説明を例に挙げるといいかも知れないが、分かりやすい説明方法と、局面別に有利な資産のパターンを使いこなせるようにしたい。

 ただし、自分が理解した市場の状況を運用に反映させることがどの程度まで適当なのかに関しては、判断の難しい問題もある。  分かりやすい説明方法を伝えることと共に、運用調節の「加減」について、長期投資との関係を踏まえつつ説明したい。

▼問題 

日本のバブル崩壊と、リーマン・ショック前後の世界的バブル崩壊の共通点と相違点を挙げよ。

▲ヒントと補足

バブルにはおおむね共通の特徴があり、1980年代後半に生じた日本のバブルは、典型的な特徴をほぼフルセットで備えていたので、事例・経験として貴重だ。 具体的には、金融緩和下での資産価格の高騰、新しい金融テクノロジー、金融的不正の横行、無理のある資産価格説明理論の登場、崩壊後の信用収縮と不況、などを確認しておきたい。

 

12 コンサルティングに有用ないくつかの概念と用語集

「人間のリスク」の大きな源の一つが「自分がもたらす意思決定上の間違い」だ。このパターンを研究した体系として行動経済学が挙げられる。行動経済学の知識は第一義的には、非合理的な意思決定のパターンを知り「転ばぬ先の杖」的な役割で使うことが適切だ。この場合に、行動経済学が批判した合理性を前提とした経済学で使われる幾つかの概念を使いこなすことが有用だ。

 また、行動経済学についても幾つかのキーワードを知っておきたい。なお、行動経済学は金融商品の売り手側が顧客の誤った意思決定を喚起する手段としても広く使われていることを理解しておきたい。  例えば、次のような用語を知っておくことが有用だろう。

・機会費用
・サンクコスト
・エージェンシー・コスト
・オーバーコンフィデンス
・メンタルア・カウンティング
・後悔回避効果
・プロスペクト理論
・「システム1」と「システム2」(D.カーネマンの「ファスト&スロー」参照)
・現状維持バイアス
・デフォルト
・オプトイン
・オプトアウト
・ナッジ
など。

▼問題

上記のそれぞれの言葉を使って、簡単な文章を作れ。

▲ヒントと補足

効用関数を使った運用意思決定  12項目の総仕上げとして、少々数式を使う説明になるが、効用関数を使った資産運用の意思決定のフレームワークについて説明して、全体の総仕上げとしたい。

 

12トピックの回答は・・・

 

12トピックすべて、「自分で考える」ことが正解

 12問について、あえて回答を挙げなかった。それは、上記のヒントをもとに、何が「正解か」を考えていただきたいからである。投資においては、他人に商品選びなどをゆだねた結果、失敗することが多い。これを避けるには、正しい情報をより分ける力を身につけていただくのが近道と筆者は考える。したがって、今回の問いに対して読者の方々が、「正解」に向かって考え始めた時点で、正解の入り口に立っているといえるだろう。